Research Highlights

ニュートンの第3法則

Nature Reviews Cancer

2005年11月1日

どんな作用にも、それと同じ大きさの反作用が働いている。すなわち、壁を押さえると、壁が同じ力で押し返しているというわけである。では、正常組織よりも硬い腫瘍において、その細胞は周囲のマトリックスが出す力のために、正常細胞よりも大きな引張応力を受けていることになるのだろうか。Valerie Weaverらが新たに得た所見からは、まさにその通りであること、このために腫瘍細胞では増殖因子のシグナル伝達経路の活性が増大し、悪性表現型が助長されていることがわかる。

腫瘍は、正常組織内の硬い腫瘤として特定されることが多く、この特徴は、乳癌スクリーニングに利用されている。しかし、分子レベルでみた組織の硬度と腫瘍の挙動との関係は不明である。Valerie Weaverらは、この問題に取り組むため、硬度を定めた三次元ゲルで非悪性ヒト乳腺上皮細胞を増殖させて分析した。正常乳腺組織と硬度が同程度のゲルで増殖させた細胞には予想通り乳腺腺房が生じ、極性細胞を伴い、細胞間の接着結合が明らかであった。しかし、この細胞を硬度の高いゲルの上でプレートアウトすると、こうした構造を形成する能力が失われ、通常の3Dマトリックス中でプレートアウトした悪性乳癌細胞と同じく、増殖が亢進することが明らかになった。

では、大きな外力を受けた細胞は、分子レベルでどう変化するのだろうか。Weaverらは、細胞は分析したどのゲルとも、硬度とは無関係に同じ力で接着していたが、接着複合体の性質は異なることを突き止めた。細胞とその下にあるマトリックスとの接着点で発現するインテグリンが、メカノトランスデューサーとして機能し、マトリックス相互作用の性質および力と細胞内シグナル伝達経路とを関連付けている。インテグリン接着は、どのゲルでプレートアウトした神経芽でも生じたが、この接着によって、フォーカルアドヒージョンキナーゼ(FAK)およびビンキュリンのいずれもが動員および活性化されるフォーカルアドヒージョンが誘発されたのは、硬度の高いゲルのみであった。また、細胞外調節キナーゼ(ERK)シグナル伝達経路の活性増大が認められたのは、フォーカルアドヒージョンをもつ細胞のみであった。さらに、インテグリンが硬度の高いマトリックスによって活性化されたため、Rho GTPase活性と、その下流にあるエフェクターのRho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ1 (ROCK1)のレベルが増大し、フォーカルアドヒージョンの形成、細胞骨格の張力、細胞の拡散および増殖がさらに増大した。

ニュートンの第3法則とシグナル伝達経路との関係が、腫瘍生物学者の興味を惹く理由は何だろうか。マトリックスの性質は、腫瘍発生の早期に変化することがわかっている。すなわち、外力および細胞骨格の張力がどのように統合され、それがインテグリン接着およびERKの活性化にどのように影響するかを理解すればするほど、分子レベルでみた腫瘍形成という点に、今までになかった見通しが開けてくる。

doi:10.1038/nrc1746

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