中途半端はいけません
Nature Reviews Cancer
2005年11月1日
プロテインホスファターゼ2A (PP2A)は、セリン-スレオニンホスファターゼ複合体で、3種類のサブユニットがある。William C. Hahnらは、PP2A-Aα サブユニットの変異が、機能的ハプロ不全を誘導することによって、ヒト腫瘍形成に寄与していることを突き止めた。
PP2Aの触媒(C)、調節(B)、構造(A)サブユニットはいずれも、いくつかのアイソフォームを持つ。ヒト腫瘍にあるAα サブユニットの変異型は、ほかのサブユニットとの結合を妨げることが知られている。
Hahnらは、ヒト細胞系にこの変異A αサブユニットを導入することによって、これが優性効果を発揮するという仮説を検証した。変異体はPP2A複合体の形成を阻害し、ホスファターゼ活性を抑制したが、増殖が増すことはなく、足場非依存性増殖も腫瘍形成も認められなかった。
もう一つの仮説としては、上記変異体の非機能性が、機能的PP2Aレベルを減じる(ハプロ不全)ことによって、腫瘍形成を引き起こすことが考えられる。 Hahnらは、短いヘアピンRNA (shRNA)を用いて、同細胞系でのPP2A-Aα 発現を抑えた。shRNAの力価を増大して、さまざまな量で発現を抑えたのである。これにより、PP2A-A αの量を野生型細胞にみる量の約半分に減じると、増殖および足場非依存性増殖が増したほか、この細胞を免疫不全マウスに移植すると、腫瘍形成が増大することが確認された。しかし、興味深いことにPP2A-A レベルをさらに減じると、この細胞は増殖ではなくアポトーシスを来した。
PP2A-Aα レベルを抑えると、必ずBサブユニットおよびCサブユニットのレベルの低下も認められたことから、両サブユニットはAサブユニットと結合していなければ不安定であることがわかる。また、A サブユニットが減少すると、BサブユニットおよびCサブユニットがAサブユニットをめぐって競合し、結果的に特定の種類の複合体の数が減少する。特に、 B56γ サブユニットをもつ複合体は検出されなかった。このサブユニットの抑制が形質転換を引き起こすことは、Hahnらが以前に明らかにしている。
以上の所見は、形質転換に関するわれわれの理解に新たにつながるもので、腫瘍形成機序としてのハプロ不全の重要性を示す証拠を示している。
doi:10.1038/nrc1748
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