Research Highlights

一歩近づく

Nature Reviews Cancer

2005年10月1日

メラノーマの危険な特徴のひとつは、転移癌への迅速な進行である。この特徴は、紫外線曝露の作用といった外的な要因によるものなのだろうか、それとも、メラノサイト自体がもつ内因性の特徴によるものなのだろうか。Robert WeinbergらはNature Genetics10月号で、メラノサイト分化プログラムの固有の特徴が、形質転換後にこの細胞を転移へ一歩近づけるという証拠を提示している。

皮膚メラノサイトは、神経冠という遊走性が特に高い胚細胞集団から生じる。Weinbergらは、発生時の遊走行動を誘発する神経冠細胞の特性もまた、高い転移性の背景となっているかどうかを明らかにしようとした。さらにはメラノーマ進行にみる細胞特異的因子の作用を検討するため、シミアンウイルス40初期領域(SV40ER)、テロメラーゼ逆転写酵素ホロ酵素(TERT)の触媒サブユニットおよび発癌性RASの組み合わせを発現させることによって、さまざまな初代ヒト細胞を形質転換させた。

上記3遺伝子によって形質転換したメラノサイトにより、マウスでは高悪性度で血管密度の高いメラノーマが形成された。このメラノーマは、ヒトメラノーマと同じく、肺、リンパ節、肝、脾および小腸といったさまざまな部位に迅速に転移播種した。ヒト線維芽細胞および乳腺上皮細胞も同じように形質転換したが、原発腫瘍を形成したままで転移はしなかった。転移癌を形成するメラノサイトが多クローン性であること、大幅なゲノム変化がないことから、形質転換メラノサイトには、マウス導入前に転移癌を形成する能力があるものと考えられる。実際、Weinbergらは転移速度に基づき、メラノサイトの形質転換に用いるSV40ER、TERTおよびRASの癌タンパク質以外、腫瘍拡散に別の遺伝子変性が必要とされる可能性は低いと予想している。

では、メラノサイトをきわめて移動しやすくするその特徴とは何だろうか。遺伝子発現分析では、神経冠細胞遊走をメディエートする転写因子 SLUGが形質転換したメラノサイトに発現することが明らかになった。さらに、SLUGは、ヒト母斑試料(良性のメラノサイト腫瘍)にも発現したが、その発現は神経冠細胞運動に関与することがわかっているほかの遺伝子と相関している。すなわち、神経冠細胞の運動および遊走に関与する胚分化プログラムの成分は、悪性形質転換前に良性ヒトメラノサイト病変にすでに発現していたのである。しかも、SLUG発現のsiRNAノックダウンにより、マウスの形質転換メラノサイトの転移腫瘍量は10倍減少した。

Weinbergらは、ヒトメラノーマの転移状態への迅速な進行は、メラノサイト分化プログラムに関連した系譜特異的因子に一部起因しうるとの結論を導いている。このため、腫瘍転移の治療または予防には、SLUGまたはその標的遺伝子のダウンレギュレーションを目的とした治療法が有用ではないかと思われる。

doi:10.1038/nrc1729

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