小さなシグナル
Nature Reviews Cancer
2005年10月1日
乳癌患者に対しては通常、リンパ節転移を調べるための生検を実施し、その予後を明らかにする。陽性となった患者は、アジュバント療法の候補と見なされる。しかし、リンパ節転移がない患者でも、最大30%には転移癌が生じる。Stephan BraunらはNew England Journal of Medicineで、骨髄検体からの播種性腫瘍細胞の検出は、転移および患者生存率の決定因子として、より信頼性が高いと報告している。
乳癌細胞は、頭頸部癌といったほかの腫瘍とは異なり、リンパ節を通らずに血流にのって直接、遠隔臓器に播種することが多い。このような癌細胞の血行性播種は、腫瘍進行の初期の事象であることがわかっている。サイトケラチンおよび上皮性ムチンといったタンパク質をみる感度の高い免疫細胞化学アッセイを用いれば、骨髄中に少数の播種性腫瘍細胞を検知できることから、Braunらは、その予後因子としての重要性を明らかにしようとした。Braunらは、I、II またはIII期乳癌の患者計4,703 例が組み入れられている試験9件のデータをプールしてメタアナリシスし、骨髄微小転移巣の検知と10年間の患者転帰との因果関係を評価した。
この研究では、腫瘍サイズ、悪性度、骨髄転移、リンパ節転移およびホルモン受容体発現など、さまざまな因子の作用が比較され、骨髄における微小転移巣の存在が、診断から5年以内の転帰(生存期間、癌再発およぴ他臓器への転移)の最良の予測因子であることが判明した。骨髄微小転移巣が検知された患者は30%を超えたが、このような患者に生じた腫瘍は大きくて組織学的悪性度が高く、他臓器への転移頻度も高かった。しかも、骨髄微小転移巣を有する患者は、アジュバント療法を受けていても当該癌により死亡する可能性が高かった。腫瘍サイズがきわめて小さく(直径2 cm未満)、リンパ節転移がないためにアジュバント療法を受けていない患者でも、骨髄微小転移巣が存在していると生存期間が短かった。
Braunらは、骨髄微小転移巣の存在をみるアッセイが、患者にアジュバント療法を実施すべきかどうかを決定する上で、リンパ節生検を補うものになるのではないかと考えている。
doi:10.1038/nrc1730
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