タイミングのよい小さな乗物
Nature Reviews Cancer
2005年9月1日
化学療法薬と抗血管新生薬との併用投与は、腫瘍増殖を緩徐にする方法として特に効果があるようである。ただし、この組み合わせには、腫瘍への血液供給を遮断すると、薬物濃度が上がりにくくなり、低酸素状態が化学療法抵抗性遺伝子発現の引き金を引くといった実際的な問題もある。現在、Ram Sasisekharanらは、こうした複雑さを上手く回避する高度な送達システムとして、「ナノセル」(腫瘍に局在して腫瘍血管系を遮断した上で、腫瘍細胞に細胞毒性薬を送達する)を考案している。
このナノセルは、生分解性高分子でできたナノ粒子を封入したリン脂質エンベロープより成る。リポソームには抗血管新生薬(ここではコンブレタスタチン)が組み込まれ、ナノ粒子には化学療法薬ドキソルビシンが接着させてある。
Sasisekharanらは、コンブレタスタチンがエンベロープから迅速に抜け出す一方で、抱合型ドキソルビシンが緩徐に遊離して、小さく不活性なフラグメントに分解された上で、さらに活性のある遊離ドキソルビシンに分解されることを確認した。この放出動態は、ナノセルのコンビネーションがin vitroで腫瘍内皮に及ぼす作用とよく相関している。このシステムは、投与から12時間後という早さで血管系を崩壊させ、30時間後には腫瘍を完全に離断した。
Sasisekharanらは、B16:F10メラノーママウスおよびLewis肺癌マウスを用いて、このシステムの治療有効性をin vivoで検証した。ナノセルによる連続薬物送達と、それ以外のいくつかの治療法(リポソームだけで一剤のみ、または両剤を同時に送達、ドキソルビシンのみを含有するナノセル、またはドキソルビシン含有ナノセルとコンブレタスタチン含有リポソームとの同時投与)について、作用を比較した。両剤を含有するナノセルを投与した動物は、ほかのどの治療グループよりも腫瘍がよく反応した。実際、薬物を連続投与したマウスの生存率の伸びは、同時投与したマウスの約2倍であった。
しかも、両剤を含有するナノセルは、いずれの治療法よりも全身毒性が小さかった。これは、細胞毒性薬の腫瘍局在効率がきわめて高いためと考えられる。Sasisekharanらは、ナノセルに染料フルオレセインを付着させ、腫瘍内および血管がよく発達した臓器の染料濃度を測定することによって、このことを確認している。腫瘍血管系は正常血管系より「孔が多く」、腫瘍組織が大きな粒子を吸収しやすくなっていることから、ナノセルが腫瘍に優先的に留まるのではないかと推測されている。
この時間的な送達システムは、このような良好な反応をどのようにして引き出すのだろうか。Sasisekharanらは、両剤を含有するナノセルは、ほかの治療薬よりも高レベルのアポトーシスを引き起こすほか、低酸素誘導因子1 (HIF1 )の発現レベルを最低限に抑えて、腫瘍内の高ドキソルビシン濃度に寄与していることを突き止めた。
では、この新しいシステムの次に来るものは何だろうか。ここで用いられたナノセルは、腫瘍血管系をより特異的に狙うプローブを加えて、さらに発展させることも可能である。Sasisekharanらは、時間的な薬物送達を用いれば、既存の薬物の有効性を大幅に改善することができ、新しい治療薬を開発するリスクおよび時間が縮小されると指摘する。
doi:10.1038/nrc1699
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