行き先のコントロール
Nature Reviews Cancer
2005年9月1日
乳癌の性質は一様でないため、その転移のしかたも実にさまざまである。最近では、特定の癌遺伝子発現シグネチャと、患者予後の良・不良とを相関させることが可能になっている。Massague´らは、マイクロアレイ分析を用い、乳癌細胞の肺への転移を選択的にメディエートする遺伝子を特定することにより、この分類を一歩前進させた。
乳癌の転移先は骨または肺が多いが、その向性の機序は不明である。Massague´らは、肺への転移能があるマウス乳癌細胞を選択し、その遺伝子発現分析を実施することによって、この向性を検討した。乳癌細胞系のトランスクリプトームと種々転移特性とを比較したところ、基本的な肺転移機能、または肺転移ビルレンスを与える肺限定の特殊機能のいずれかに関与しているのではないか、とされる候補遺伝子が54個特定された。
特に、転移性の高い細胞は、細胞接着分子SPARC、細胞接着受容体VCAM1およびマトリックスメタロプロテイナーゼ2 (MMP2)をコードする遺伝子の発現レベルが高いことがわかった。ほかの遺伝子(細胞の分化および老化の転写阻害因子をコードするID1と、MMP1を含む)は、この細胞系の肺転移能に応じて増大した。
親細胞系を用い、上記遺伝子を種々組み合わせて過剰発現させたところ、高レベルな肺選択的転移活性をもたらす組み合わせがあることがわかった。しかも、RNAiを用いて一部の遺伝子の発現を抑えると、この細胞の肺転移活性を減じることができた。したがって、上記遺伝子は、肺選択的転移のマーカーであると同時に、機能的メディエータでもある。
Massague´らは、自らの所見の臨床的な裏づけを得るため、原発性乳癌患者のコホートを対象に、上記遺伝子の発現レベルを分析した。これらの遺伝子を発現する腫瘍を有する患者は、無肺転移生存期間が短かったが、その発現と無骨転移生存期間とは相関していなかった。さらに分析したところ、この肺転移遺伝子のいくつかは、乳癌の発生をも助長することが明らかになった。そこからは、これらの遺伝子を発現する細胞がどのようにして、原発癌で勝ち残っていくのかがわかる。ただし、転移性の高い細胞に認められるほかの遺伝子の発現が原発癌にみられるのは稀であり、その増殖を大きく促進することもない。しかし、この稀な細胞がいったん肺に到達すれば、これらの遺伝子が強力に勝ち残っていくのである。
doi:10.1038/nrc1701
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