Research Highlights

モーターで前へ

Nature Reviews Cancer

2005年9月1日

タキサンおよびビンカアルカロイドのように、紡錘体を標的にして細胞分裂を中断させる物質が、抗癌剤として幅広く用いられている。こうした薬物は、非分裂細胞で多彩な機能を発揮する微小管を標的にすることから、副作用も多い。Weikang Taoらは、紡錘体のもうひとつの成分であり、分裂期にのみ機能するKSPモータータンパク質について検討し、阻害因子が癌細胞のアポトーシスを誘導する独特な機序を有することを明らかにした。

KSPはキネシンスーパーファミリーに属し、分裂期には中心体の分裂および双極性紡錘体の形成をメディエートする。この過程が中断すると、「紡錘糸集合チェックポイント」が活性化して分裂後期に入らなくなり、細胞周期が停止する。これを踏まえ、新世代の抗有糸分裂薬としてのKSP阻害薬が開発段階にある。

Tao らは、ハイスループットのスクリーニングを実施し、KSPの運動領域の阻害因子を特定した。Taoらはある化合物を発見してKSP-IAと名づけ、それが KSPの酵素活性を阻害する特異的かつ細胞膜透過性の低分子であることを示した。KSP-IAは、卵巣癌および大腸癌の細胞系の紡錘体チェックポイントを活性化し、分裂停止へ追い込んだ。上記作用は可逆的であり、この薬物が除去されると、細胞は正常な染色体分離および細胞質分裂を経た。しかし、薬物による処理時間が24時間を超えると、細胞は顕著に断片化してアポトーシスに至った。

紡錘体機能の中断はどのようにして、アポトーシスを引き起こすのだろうか。Taoらは、紡錘体チェックポイントコンピテント細胞を用いて、この薬物に長時間曝露することによるアポトーシスの誘導には「有糸分裂のずれ」がつきものであり、細胞はこの過程によって、紡錘体損傷の持続下で紡錘体チェックポイントを無効化して有糸分裂を脱し、四倍体細胞になることを突き止めた。紡錘体チェックポイントが活性化して有糸分裂のずれが起こると、向アポトーシスタンパク質 BAXが活性化して、KSP-IAで処理した細胞での細胞死誘導機序がメディエートされる。

以上の所見からは、紡錘体チェックポイントが活性化して有糸分裂のずれが起きると、KSP阻害因子の致死性が増大することがわかる。これは、DNA損傷チェックポイントの機序と類似しており、抗癌剤としてのKSP阻害薬を開発する上で重要な意味をもつ。

doi:10.1038/nrc1700

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度