Research Highlights

JUNが足を踏み入れる

Nature Reviews Cancer

2005年8月1日

いくつかのヒト癌では、転写因子c-JUNの活性が高くなっている。Axel BehrensらはNatureの論文で、c-JUNが、大腸癌発生の中心となる転写複合体の一部であることを明らかにしている。

大腸腺腫症遺伝子(APC) が消失すると、大腸癌の発症リスクが高くなる。APCは、アキシンおよびグリコゲン合成酵素キナーゼGSK3 と結合し、この複合体が転写調節因子カテニンをリン酸化すると、これがさらにユビキチン化されて分解される。 WNT がその受容体Frizzledと結合した場合に限り、この複合体が破壊されてカテニンが核に蓄積する。そこで、転写因子ファミリーT細胞因子/リンパ系増強因子(TCF/LEF)のメンバーと相互作用するのである。WNTシグナル伝達は、N末端のリン酸化によってc-JUN を活性化するc-JUN N末端キナーゼ(JNK)の活性化など、他の経路にも影響を与えうる。Behrens らは以前に、リン酸化c-JUNと特異的に結合する因子を特定しているが、そのひとつがTCF4であった。TCF4はカテニンとも相互作用することから、Behrens らは、TCF4とカテニン、TCF4とc-JUNとの相互作用を検討し、TCF4とc-JUNとの相互作用は、c-JUN N末端の2つのセリン(Ser63およびSer73)のリン酸化に依存していること、TCF4がカテニンともc-JUNとも同時に結合できることを突き止めた。

c-JUNは、自らのプロモーターにある近位部位2カ所と結合することによって、その転写を自己調節する。この部位の上流に、c-JUNがTCFコンセンサス結合配列をもっているのも興味深い。Behrens らはこのため、c-JUN の転写調節を検討し、その効率がJNKに依存しており、完全な状態のc-JUN-TCF4β カテニン複合体を必要とすることを突き止めた。

c-JUN-TCF4β カテニン複合体の生物学的結果を知ろうと、Behrens らは、機能的Apc対立遺伝子が1つ欠失し、これによる野生型対立遺伝子の消失で多発性腸腫瘍が発生するApcMin/+マウスを用いて、これと、c-JUNのSer63およびSer73がアラニンに変化していてTCF4と結合することができないJunAAマウスとを交配した。ApcMin/+c-Jun+/+マウスおよびApcMin/+JunAA/+マウスはいずれも腸腫瘍を生じたが、ApcMin/+JunAA/AAホモ接合型は、腸腫瘍の発生速度が有意に遅かった。また、このマウスの腫瘍は小さく、頻度も少なかった。これは、ApcMin/+JunAA/AA ホモ接合型の腫瘍細胞の増殖指数が有意に低下していたためであった。

c-JunがApcMin/+マウスの腸細胞からが欠失すると、どうなるのだろうか。このマウスには腸腫瘍が発生しなかったが、代わりに腸全体に多発性の嚢胞状構造が認められた。この嚢胞には、c-Jun野生型ApcMin/+マウスの腫瘍と同じく、APC消失による カテニンの蓄積が見られた。Behrens らは、c-Jun不在下では、 カテニン経路を活性化しても腫瘍発生の引き金を引くことはできず、代わりに良性の嚢胞が形成されるとの結論を導いている。

JunAAホモ接合型マウスは発生も寿命も正常であるため、ホスホ-c-JUN?TCF4相互作用を阻害することが、腸腫瘍の治療標的となりうる。

doi:10.1038/nrc1687

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