Research Highlights

スクリーン成功

Nature Reviews Cancer

2005年8月1日

癌に関与する遺伝子を調べるヒト細胞系のスクリーニングには慎重を要する。このような遺伝子は往々にして劣性であり、それが不活性化する機序は複雑である。遺伝子発現の低下が特定の細胞の表現型に及ぼす影響を検討するRNAiスクリーンは、癌に関与する遺伝子を特定する有力な方法となりうる。現在、別の2つの研究グループがRNAiベースのヒト細胞系スクリーニングを用いて腫瘍抑制因子の新規候補を特定し、この方法が重要であることを確認している。

両研究グループは、短鎖ヘアピンRNA (shRNA)をもつレトロウイルスベクターのライブラリを作成した。そのひとつ一つがヒトの単一遺伝子を補完するものであり、全部で8,000個前後の遺伝子があった。研究者らは、腫瘍抑制因子候補をノックダウンすれば上記細胞の表現型を十分に転換できるとの根拠から、形質転換する態勢が整った組換えヒト細胞系に上記ベクター一式を移入した。

ほとんどの癌は上皮組織から生じるため、Steve Elledgeらは、スクリーニングに不死化乳腺上皮細胞系を選択している。この細胞がin vitroで正常に増殖するには、細胞外マトリックスの支えが必要であるが、形質転換後は「足場非依存性」となり、軟寒天での増殖能力を簡単にスクリーニングすることができる。Elledgeらはまた、哺乳動物の細胞を用いた初めての「遺伝子バーコード」使用試験を実施するという機会も得ている。各shRNAベクターに独自の60ヌクレオチドのバーコードを加えることで、マイクロアレイの使用により、ノックダウンに関与するshRNAを問題なく特定することができた。

Elledgeらがピックアップした遺伝子のいくつかが、形質転換増殖因子受容体II (TGFBR2)およびホスファターゼとテンシンの相同遺伝子(PTEN)など既知の腫瘍抑制因子であった点は心強い。ほかにも、新しい腫瘍抑制遺伝子の候補としてRE1-抑制転写因子(REST) が見つかっている。TGFBR2と同じく、RESTは、ヒト腫瘍抑制因子の染色体の特徴としてよくみられるヘテロ接合の消失を受けることが多い遺伝子座にある。

REST は、前立腺癌および小細胞肺癌でダウンレギュレートされていることが多く、大腸癌ではしばしば欠失している。Elledgeらは、RESTのダウンレギュレーションが、癌の進行に重要な経路であるホスファチジルイノシトール-3-キナーゼシグナル伝達を増幅するという証拠を提示している。さらに、REST が神経以外の組織の神経遺伝子を抑制するという事実が、癌における潜在的な機能のもうひとつの手がかりになっている。ヒト腫瘍のなかには、神経特異的遺伝子を異常に発現するものがいくつかあるが、Elledgeらは、このことが癌に重要な役割を担っており、それにRESTが加担しているのではないかと考えている。

Reuvan Agamiらは、形質転換にRAS脱制御のみを必要とする線維芽細胞系を不死化して、ここへshRNAベクターを導入している。RASタンパク質は、細胞表面から核へ増殖シグナルを伝達しており、この過剰発現または異常活性化は、癌の大きな原因である。ヒト癌ではRASの活性化変異がよくみられるが、野生型の遺伝子のコピーを保持している腫瘍が依然として多いことから、Agamiらは早速、阻害されるとRASを活性化させる遺伝子を探し始めた。

Agamiらは、ホメオドメイン遺伝子のpaired-likeホメオドメイン転写因子1 (PITX1)を特定している。これは、膀胱癌および前立腺癌でダウンレギュレートされていることが多い。PITX1がヒト癌で変異を来しているのか、それとも欠失しているのかはまだわかっていないが、Agamiらは、PITX1の消失が、RAS活性化および表現型の転換につながりうることを示す興味深い証拠をいくつか提示し、RAS活性を抑制する遺伝子ファミリーに属するRAS-GAP遺伝子であるRASAL1をPITX1が転写的に活性化することを突き止めている。

RESTおよびPITX1はきわめて興味深い候補であるが、癌における役割を確認するには、さらに研究を重ねる必要がある。しかし、上記の両研究からは、RNAiライブラリを用いたスクリーニングが、腫瘍抑制遺伝子となりうるものの特定にいかに有力であるかがわかる。

doi:10.1038/nrc1685

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