粗雑な修理では悪い結果に
Nature Reviews Cancer
2005年8月1日
癌によくみられる特徴としては、染色体の獲得と喪失のほか、大きな染色体転位(GCRs)があるが、その発生については、いまだ完全にはわかっていない。Wangらはマウスを用いて、複製タンパク質A のサブユニット1 (RPA1)が、染色体安定性および腫瘍抑制に不可欠であることを明らかにしている。
三量体RPA複合体は、DNAの修復および組換えにきわめて重要であり、その最大のサブユニットであるRPA1は、どの真核生物でも保存されている。以前には、酵母RPA1相同体のL221P変異により、ヒト癌にみられるのと類似した GCRが起きるという興味深い結果が得られている。そこでWangらは、マウスを用いて同等のRPA1変異(Rpa1 689T C)発生の影響を検討した。
ホモ接合のRpa1689C/689C胚は胚子期第3.5日に死亡したが、ヘテロ接合のRpa1689C/+マウスは得られ、無事、完全長L230P変異RPAタンパク質が生じた。しかも、ヘテロ接合マウスは野生型ほど健康ではなく、リンパ組織過形成を来たし、造血に異常が認められた。また、ほとんどのマウスがリンパ腫となり、中には高悪性度のものもあった。
この腫瘍を分析したところ、野生型も変異Rpa1も対立遺伝子は消失しておらず、DNA代謝でその役割が不可欠であることと矛盾しなかった。しかし、どの腫瘍にもゲノムの変質が認められ、6番および15番染色体全体の獲得と、それ以外の染色体の部分的な獲得と喪失が著明であった。しかし、このような転位に腫瘍抑制遺伝子の喪失は関与していなかった。
ここで観察されたゲノム不安定性は、Rpa1 689T C変異の直接の結果なのだろうか。それとも、腫瘍が進行する中で生じる二次的な事象なのだろうか。野生型線維芽細胞(MEF)に比べると、Rpa1689C/+ マウス胚MEF細胞には、異常核型および染色体切断がはるかに多い。さらに、これは欠陥RPA1によって引き起こされるDNA二本鎖切断(DSB)修復の消失によるものと考えられる。DSBマーカーのひとつであるリン酸化ヒストン -H2AXは、Rpa1689C/+ MEFで高度に誘導され、DNA複製が一時的に阻害された後も残存した。
Wangらは、酵母に立ち戻り、Rpa1689C 変異タンパク質の酵母等価物を用いて一連の遺伝子間相互作用実験を実施している。相同組換え成分も種々チェックポイントタンパク質もない酵母菌株に、この変異タンパク質が発現すると、GCR発生率が有意に増大した。以上のことからWangらは、上記過程の欠陥が、マウスのリンパ腫形成を引き起こすとの結論を導いている。
多岐にわたる悪性腫瘍では、ヒトRPA1遺伝子があるヒト染色体17p13.3領域の喪失が明確であるため、上記の結果にはヒト腫瘍形成に対する含みがある。
doi:10.1038/nrc1680
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