切断部位を融合する
Nature Reviews Cancer
2005年8月1日
テロメアは染色体末端が融合しないよう保護しており、テロメアが消失すると、ゲノム不安定性および腫瘍形成を来たすことがある。しかし、テロメアの消失によっては、アポトーシスも生じうる。Carol Greiderらは、短いテロメアがDNAの二本鎖切断部位に融合して、発癌性の染色体転座を妨げることによって、腫瘍形成を阻害することを明らかにしている。
Greiderらは、毛細血管拡張性運動失調症変異遺伝子(Atm) (DNA二本鎖切断の存在をシグナル伝達するのに関与し、テロメアの維持を担っている)もテロメラーゼRNA (mTR) (機能的テロメア長を維持する)もヌルのマウスモデルを検討した。Atm-/-mTR+/+マウスには、T細胞受容体遺伝子座付近に修復されていない切断が高頻度に認められ、これが元で胸腺リンパ腫が発生した。後の世代のAtm-/-mTR-/- マウスはテロメアが短く、アポトーシスが増大して胸腺リンパ腫が減少したために、Atm-/-mTR+/+ マウスよりも長く生きた。では、短いテロメアがアポトーシスを引き起こすには至らないものの、DNA二本鎖切断が蓄積していく初期の世代のAtm-/-mTR-/-マウスには何が起きているのだろうか。
Greiderらは、第一世代のAtm-/-mTR-/-マウスの生存期間も、Atm-/-mTR+/+ マウスより長いことを知って驚いた。しかも、予想していたほど胸腺リンパ腫が発生しなかったのである。Greiderらは、アポトーシスの増大、細胞の成長または増殖の低下が腫瘍形成減少の機序であることを否定し、この表現型は、腫瘍増殖ではなく腫瘍発生の低下によるものではないかとしている。次の世代のAtm-/-mTR-/- マウスでは、テロメアの長さが短くなり、染色体のテロメアシグナルのない末端の数(ゲノム不安定性増大の表れである)が増大していた。染色体転座の総数は、Atm-/-mTR+/+マウスもAtm-/-mTR-/-マウスもほぼ同じであったが、Atm-/-mTR-/-マウスの腫瘍染色体の15?25%には、転座接合部に内的テロメアシグナルが認められた。決定的な要因は、T細胞受容体遺伝子座が関与する転座事象の数が第一世代のAtm-/-mTR-/-マウスに高く、その多くが転座接合部にテロメアを含んでいることであった。
以上のように、このモデルでは、短い非機能的テロメアがDNA切断部位と容易に融合し、これが発癌性転座の形成と競合して発癌を抑える。後の世代では、テロメア機能不全の割合および遺伝子不安定性が増大し、そのために転座部位へのテロメア融合という保護作用が意味のないものになっている。こうした所見は特に、DNA修復経路の欠如が関与するヒト腫瘍の発生に当てはまるのではないかと考えられる。
doi:10.1038/nrc1677
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