影響を安定させる
Nature Reviews Cancer
2005年8月1日
遺伝子の変異によって、腫瘍抑制因子p53が消失する腫瘍は多いが、p53を標的にしてプロテアソーム分解するユビキチンリガーゼ(E3) HDM2が不活化されないために野生型p53の不活化が起こることもある。Allan WeissmanとKaren Vousdenらは、HDM2活性を阻害し、それによって野性型p53を安定化および活性化させる化合物を同定している。これらのデータからは、ユビキチンリガーゼが創薬の標的となりうることがわかる。
低分子ライブラリのハイスループット・スクリーニングでは、HDM2を介する自己ユビキチン化をin vitroで強力に阻害する7-ニトロ-5-デアザフラビン化合物ファミリー(HLI98s)が同定された。HLI98化合物は特に、HDM2のRINGフィンガー領域を阻害し、p53と相互作用する領域は阻害しない。一次ヒト線維芽細胞をHLI98化合物で処理すると、p53レベルもHDM2レベルも上昇する。ユビキチン化したp53は検出されず、この化合物がプロテアソーム機能ではなく、ユビキチン化を阻害するものであることと矛盾しない。
細胞系におけるHLI98化合物には、ほかのRINGフィンガーE3と比較して、多少のHDM2選択性があった。この化合物は、マウス胚線維芽細胞(MEF)のMDM2(HDM2のマウス相同体)不在下では、p53を安定化せず、PIRH2およびCOP1など、p53を分解の標的とするほかのE3を阻害しないことがわかった。このほか、MDM2以外のE3リガーゼによって調節される別のタンパク質であるp21を安定化することもなかった。
では、HLI98化合物によるp53の安定化は、p53の活性化をも促すのだろうか。Weissman らは、HLI98化合物で処理すると蓄積するp53が、転写的に活性であり、p53標的遺伝子CDKN1A (p21をコードする)およびPUMAの転写を誘導することを明らかにした。p53がもつ腫瘍抑制という役割の重要な部分は、アポトーシスの誘導であり、HLI98によって安定化したp53がアポトーシスを誘導する能力は、カスパーゼの活性化および処理したMEFにおける細胞死の増大によって示された。しかし、HLI98による処置はほかにも、 p53依存性の細胞周期の停止およびアポトーシスを引き起こし、ユビキチン系のE2酵素や、ほかのE3酵素に対する作用など、上記化合物の的外れ活性を反映している。
以上のデータは、ユビキチンリガーゼ阻害因子の本質を示す証拠であり、腫瘍におけるp53再活性化の方法として、HDM2とp53との相互作用の阻害に代わるものを提供している。
doi:10.1038/nrc1682
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