Research Highlights

B細胞が腫瘍進行を導く

Nature Reviews Cancer

2005年7月1日

慢性炎症性疾患と発癌との間につながりがあると報告する研究は多い。しかし、発癌部位で炎症性の自然免疫細胞の動員がどのように開始されたり、維持されたりするのかは明らかになっていない。Lisa Coussensらは、マウス上皮癌モデルを用い、自然免疫細胞による炎症を助長する上でB細胞が担う重要な役割を報告しているが、それは適応免疫細胞が新生物発生に対する「サーベイランス」に関与しているという見方とは異なるものである。

K14-HPV16マウスは、ヒトケラチン14プロモーター/エンハンサーの制御下で、ヒトパピローマウイルス16型の癌遺伝子を発現し、上皮癌の多段階発癌を来たす。前癌段階は、顆粒球やマスト細胞といった自然免疫細胞の皮膚浸潤を特徴とする。しかし、K14-HPV16マウスと、T細胞およびB細胞がない組換え活性化遺伝子1欠損マウス(K14-HPV16/Rag1-/-マウス)とを交配すると、この浸潤は大幅に抑えられる。皮膚浸潤の抑制には、K14-HPV16マウスと比較してマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)の活性が低いことが関連していた。MMP9は白血球から分泌され、組織リモデリングに対して作用し、血管新生の増殖因子である血管内皮増殖因子(VEGF)を細胞外マトリックスから放出するという形で、発癌における役割を担っている。これに対して、K14-HPV16/Rag1-/-マウスは、K14-HPV16マウスよりも皮膚溶解物中のVEGF 濃度が低く、血管新生マーカーも少ない。

K14-HPV16/Rag1-/-マウスには典型的な前癌段階の炎症特性がないため、上皮癌はあまり進行せず、末期癌となったのは、K14-HPV16マウスが47%であったのに対して、K14-HPV16/Rag1-/-マウスは6.4%に過ぎなかった。すなわち、このモデルでは、適応免疫系であるT細胞およびB細胞がないために、前癌段階の炎症および腫瘍進行が妨げられている。

Coussens らは、この過程でB細胞がもつ特異的な役割を吟味するため、抗体沈着物を調べた。B細胞は、前癌段階の皮膚には浸潤せず、皮膚の抗原に特異的な抗体の全身的な産生によってその作用を発揮すると考えられる。免疫グロブリンG (IgG)およびIgMの沈着は、1カ月齢までにK14-HPV16マウスの皮膚から検出でき、慢性炎症の発生に伴って6カ月齢まで増大した。望ましい特異性をもつ感作B細胞および/または記憶B細胞を備えているものと思われるK14-HPV16マウスから、K14-HPV16/Rag1-/-マウスへB細胞を養子移入したところ、皮膚の白血球浸潤をはじめ、血管新生などの下流の特徴の回復によって、B細胞の重要な役割が確認された。K14-HPV16マウスからの血清移入にも類似した作用があり、B細胞に想定されている、抗体および/またはサイトカインなどの可溶性メディエーター産生を介しての全身作用と一致している。

Coussens らは、このモデルではB細胞が前癌状態での慢性炎症を助長することにより、腫瘍の進行上できわめて重要な部分を占めているとの結論を導いている。したがって、ワクチン接種など、B細胞応答の刺激を目的とした治療法を発癌傾向のある患者または前癌疾患を有する患者に用いる場合には、注意が必要である。

doi:10.1038/nrc1662

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