Research Highlights

敵か見方か?

Nature Reviews Cancer

2005年7月1日

以前の証拠は、マイクロRNAs (miRNA)が腫瘍形成に関与していることを示していた。Natureに最近掲載された2報は、異なる見地から現在このことを裏付けており、13番染色体上にある特定のmiRNAクラスター(mir-17)が、腫瘍抑制遺伝子または癌遺伝子のいずれかとして機能するのではないかとしている。

miRNAは短いRNA分子で、まずは長い一次転写産物(pri-miRNA)として転写され、一連の作用を受けてmiRNAとして完成する。それらは、その標的mRNAの安定性および転写効率を調節しているほか、分化、増殖またはアポトーシスの調節にも関与しうる。

転写因子MYCも増殖およびアポトーシスの調節のほか、腫瘍成形に関与していることから、Joshua Mendellらは、MYCによって調節されるmiRNAがあるのだろうかという疑問を抱いた。そこで、スポットしたmiRNA 235個のオリゴヌクレオチドアレイを用いて、テトラサイクリン応答性MYC導入遺伝子を発現するヒトB細胞系でのMYC依存性miRNA発現を分析した。MYCを過剰発現する細胞およびmir-17クラスターからの転写産物に対応する細胞で、miRNA 6個がアップレギュレートされた。Mendellらは、ラット線維芽細胞でもMYCが上記miRNAのサブセットをアップレギュレートすることを確認した上で、MYCがmir-17座と結合するかどうかに取り組んだ。推定上のMYC結合部位7カ所が発見され、MYCはmir-17クラスター一次転写産物のイントロン1内の非定型MYC共通配列と結合することが明らかになった。

このことは、細胞機能の点で何を意味するのだろうか。MYCは、転写因子E2F1の発現を調節し、さらにE2F1が推定上のフィードフォワードループのなかで、MYCの発現をアップレギュレートする。E2F1は、このmiRNAのサブセットによって調節されるものと考えられており、Mendellらは、mir-17miRNA の発現によって、E2F1タンパク質レベルが、完全には抑制されないながらも、低下することを明らかにした。Mendellらは、miRNAがE2F1の過剰産生を阻害することでMYCによる増殖をコントロールするのではないか、としている。このmiRNAは、腫瘍抑制遺伝子として機能している可能性がある。しかし、E2F1の過剰産生がアポトーシスを引き起こすこともわかっていることから、mir-17クラスターは、E2F1による細胞死を妨げることによって、腫瘍形成を助長しているとも考えられる。

Scott Hammondらも、mir-17クラスターを調べているが、視点が異なっている。このクラスターを含む13番染色体領域は、さまざまなヒトB細胞リンパ腫で増幅されている。Hammond らは、このクラスターのpri-miRNAのアップレギュレートは、検査したヒトB細胞リンパ腫の65%に認められるが、ヒト大腸癌の検体群にはこれがほとんど認められないことを確認した。Hammondらは、B細胞リンパ腫におけるこのmir-17 miRNAの機能を評価するため、脊椎動物特異的miRNAを発現するマウス幹細胞レトロウイルスを作製した。放射線照射したマウスに、MYCが過剰発現する造血幹細胞(HSC)を野生型レトロウイルスまたはmiRNA発現レトロウイルスのいずれかに感染させて注入し、リンパ腫の発生を比較した。 miRNA発現の不在下では、MYCの発現が脱規制されていることもあって、すべてではないが一部のマウスがリンパ腫を発症した。しかし、MYCも miRNAも発現するHSCを注入したマウスでは、中悪性度リンパ腫が迅速に生じた。このリンパ腫は、B前駆細胞より成る点がMYCによるリンパ腫とは異なっており、アポトーシスレベルが顕著に低かった(アポトーシスは通常、MYCによるリンパ腫で明白である)。Hammondらは、上記miRNAが胚幹細胞にも発現するとすれば、このmiRNAの発現により表現型が幹細胞様となるのではないか、としている。このことと、アポトーシスレベルの低下とを考え合わせれば、このような状況下ではmir-17miRNAに発癌性があるということになる。

miRNA がさまざまなmRNAの調節に影響を及ぼしており、その多くはまだ特徴が明らかにされていないことから、細胞の遺伝的特性および微小環境をはじめとする諸因子は、まちがいなく腫瘍形成におけるこのmiRNAの作用に影響を及ぼすことになる。今後、さらに研究が重ねられるであろうことは疑うべくもない。

doi:10.1038/nrc1658

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