Research Highlights

らせんとカール

Nature Reviews Cancer

2005年7月1日

数十年間にわたって、癌治療にはビンブラスチンが用いられてきたが、チューブリンを標的にすることが知られてはいるものの、その結合部位および作用機序は明らかになったばかりである。Marcel Knossowらは、チューブリンと結合したビンブラスチンのX線構造を解明し、ビンブラスチンがどのようにして微小管のらせん形成を誘導し、有糸分裂の途絶をもたらすのかを説明している。

Knossowらは、微小管ダイナミクスの調節に関与しているRB3タンパク質のスタスミン様領域によって、それぞれがチューブリンalphaおよびチューブリンbetaのサブユニットから成るヘテロ二量体2つを結合した複合体とともに、ビンブラスチンをインキュベートした。そして、2つのチューブリン分子間の界面にビンブラスチンと結合する部位がひとつあること、ビンブラスチンが一方の分子のチューブリンalphaおよびもう一方の分子のチューブリンbetaと結合することを明らかにした。パクリタキセルおよびコルヒチンといったほかのチューブリン結合分子は、1つのチューブリン分子のみに結合する。さらに分析したところ、ビンブラスチンの部位がプロトフィラメントの長軸方向の接触に関与する残基から成ることが明らかになった。ビンブラスチンは、その表面積の 80%を上記複合体内に埋め、チューブリンの立体配座変化を引き起こす。ビンブラスチンのD’リングは、チューブリンと結合する薬物の一部であることから、D’リングの修飾が薬物活性に影響を及ぼすという以前の所見の説明がつく。ビンブラスチンとチューブリン複合体との結合時に起こる蛍光の変化を利用して検討したところ、結合は、迅速平衡衝突複合体の形成と、構造変化と同時に起こると考えられる緩徐な転位の2段階を経て生じることがわかった。

以上のデータからは、ビンブラスチンの結合がチューブリンのダイナミクスにどう影響するかが把握できる。ビンブラスチンは、らせん様チューブリン重合体の形成を誘導するが、Knossowらは、このことと新しい構造データから、この重合体においては、ビンブラスチンが一方の分子のチューブリンalphaともう一方の分子のチューブリンbetaとを架橋していると推測している。このほか、ビンブラスチンが微小管先端と結合し、低濃度で重合端の動的不安定性を抑制することもすでにわかっており、これが臨床で腫瘍細胞死を生じる有糸分裂の途絶につながっているものと考えられる。Knossowらによると、ビンブラスチンは低濃度で微小管末端の湾曲を引き起こすが、微小管の中核は何ら損なわれることがない。高濃度の場合、ビンブラスチンはプロトフィラメントのらせんを引き起こし、微小管の解重合をもたらすことがすでにわかっている。Knossowらは、この流れでいくと、ビンブラスチンが微小管全体をさらに湾曲させ、そのために微小管特異的な接触がさらに失われ、微小管の分解および有糸分裂の途絶が誘発されると考えている。

doi:10.1038/nrc1654

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度