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Nature Reviews Cancer
2005年6月1日
細胞周期チェックポイントが活性化されると、必ず細胞は遺伝情報を損なわれずにDNA複製から有糸分裂へと進む。タンパク質基質のリン酸化は、こうしたチェックポイントの引き金を引くが、それゆえ細胞が常態を取り戻すには脱リン酸化が必要となる。Lawrence Donehowerらは、p53によって調節されるセリンスレオニン脱リン酸化酵素PPM1Dが、細胞を周期に戻すのに重要であることを明らかにしている。
キナーゼである毛細血管拡張性運動失調症変異遺伝子(ATM)および毛細血管拡張性運動失調症とRad3関連遺伝子(ATR)のDNA損傷による活性化は、p53、チェックポイントキナーゼCHK1およびCHK2を含む下流チェックポイント関連タンパク質を刺激するのにきわめて重要である。細胞がどのようにしてこの応答のスイッチを切るかについては、大部分が未踏の領域である。 PPM1Dは、電離放射線(IR)および紫外(UV)線といったさまざまなDNA損傷刺激に反応して活性化される。Donehowerらは、ほかのホスファターゼがチェックポイントタンパク質の調節に関与しているとすれば、PPM1Dにも類似した機能があるのだろうかと考えた。
Donehowerらはまず、in vivo共免疫沈降法により PPM1D基質を同定し、PPM1DがCHK1と結合してSer345を脱リン酸化することで、下流のチェックポイントタンパク質をリン酸化して活性化させるCHK1の能力を阻害することを突き止めた。さらに、PPM1Dを標的としたsiRNAにより、UV線に曝露後にリン酸化CHK1タンパク質のレベルが上昇した。CHK1はG2/Mチェックポイント調節することから、以上のデータはPPM1Dが関与している可能性を示すものである。
Donehowerらの以前の研究結果からは、PPM1Dがp53のSer15のリン酸化をも調節していることがわかっている。この論文で報告されているin vitroおよびin vivoでのキナーゼアッセイでは、PPM1DがSer15を脱リン酸化し、さらにはp53の機能を抑える可能性があることも確認されている。Ser15は、IRまたはUV線に応答したATMまたはATRによってリン酸化されるが、Donehowerらは、そのキナーゼのレベルではPPM1Dが機能しないことを明らかにしている。
PPM1D基質であるp38 MAPキナーゼもまた、特定の条件下でG2/Mチェックポイントを調節することから、Donehowerらは、p38がPPM1Dの活動に関与しているかどうかを検討し、p38を阻害しても、過剰発現したPPM1DがCHK1の機能を損なう能力が抑えられないことを明らかにした。また、PPM1DがIRまたはUV線に応答してS期内チェックポイントおよびG2/Mチェックポイントを抑制することをも確認している。
PPM1Dは腫瘍形成に関与しているのだろうか。以前の実験では、PPM1Dが過剰発現すると細胞の発癌性形質転換が助長され、PPM1Dが消失すると形質転換に対する抵抗性がもたらされることがわかっている。ヒト腫瘍でも、種類によってはPPM1Dが過剰発現しているものがあり、乳癌では15%がそれにあたる。Donehowerらは、PPM1Dの発現が増大している乳癌細胞3系列について、CHK1のリン酸化Ser345のレベルを検討している。UV線で処理すると、対照細胞系のSer345リン酸化のレベルは高くなったが、乳癌細胞系ではこのリン酸化が穏やかに誘導されるにとどまった。細胞周期チェックポイントを無効にすると、PPM1Dの発現がアップレギュレートされて増殖が亢進し、染色体不安定と、DNA損傷応答に対する作用ゆえのPPM1Dレベル上昇によって、変異の蓄積が高まる可能性もある。これらの側面はいずれも、今後検討を重ねるに値するものである。
doi:10.1038/nrc1639
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