Research Highlights

皮膚の奥?

Nature Reviews Cancer

2005年6月1日

メラノーマの遺伝子発現プロファイリングにより、ほとんどの転移性メラノーマに発現すると思われる遺伝子が浮かび上がったが、全体的な転写プロフィールとメラノーマ進行の諸段階との関係はわかっていない。たとえば、ほくろと原発性メラノーマや転移性メラノーマはどう違うのか。 Christopher Haqqらは現在、腫瘍進行の各段階の遺伝子発現シグネチャを提示している。

メラノーマは、輻射状に増殖する初期段階から、垂直方向への増殖(腫瘍に転移能が現われると考えられている段階)へと進行する。このため、原発性メラノーマの深度が転移の予後因子となるが、浅い腫瘍の段階から転移するものもあれば、深部に至る腫瘍でも転移しないものもある。Haqqらは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを用いて、輻射状増殖期であるか垂直方向増殖期であるかに関係なく、大きなメラノーマから細胞を単離した。cDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現レベルを測定し、2クラスのマイクロアレイ有意性解析ソフト (SAM)を用いてこれを分析したところ、意外にも、輻射状増殖期から垂直方向増殖期への移行期に機能し始める遺伝子はなく、実際には、いくつかの遺伝子 (主として細胞外マトリックス遺伝子または細胞接着関連遺伝子)の発現が消失していた。タンパク質レベルでは、この遺伝子発現データはカドヘリン (CDH3)の量として裏付けられ、輻射状増殖期のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP10)は、往々にして垂直方向増殖期よりも多かった(重要なことに、決して少なくはなかった)。このことからは、原発性メラノーマの輻射状増殖期に、転移の可能性があることがわかる。

患者17例の転移性メラノーマ19検体について遺伝子発現分析を実施し、教師なし階層クラスター分析を用いたところ、転移性腫瘍のサブタイプ2種の特徴が明らかになった。元の輻射状増殖の発現プロフィールをもつ遺伝子の約75%は、転移性メラノーマのサブタイプIにのみ多く発現していた。この転移サブタイプの遺伝子プロフィールも主として発現配列タグより成ることから、この種の転移性増殖を引き起こす変化については、分子レベルでの特徴が十分に明らかにされていない。しかし、メラノーマのサブタイプIIは、よく知られたメラノーマ関連遺伝子をいくつか発現した。以前に用いた予後因子のいくつかについては、I型転移巣およびII型転移巣のいずれとの相関も明らかにならなかった。しかし、患者の生存率を考えると、I型遺伝子が発現するメラノーマの提供者は、全例が転移性メラノーマにより死亡しているが、II型遺伝子が発現する提供者は12例中4例が生存している。

Haqqらは最後に、皮膚、ほくろ、原発性メラノーマおよびメラノーマ転移巣の遺伝子発現シグネチャを比較している。ほくろと原発性メラノーマとの間には、遺伝子発現の著明な獲得および消失が起こり、SAM解析では、ほくろと原発性メラノーマとを確実に区別できる一連の遺伝子1,076個が特定された。最終的には、遺伝子2,602個により、皮膚、ほくろ、原発性メラノーマおよび転移巣をそれぞれ区別することができた。メラノーマの転移は、核受容体コアクチベータ3 (NCOA3)のような癌遺伝子のアップレギュレーションや、Hermansky?Pudlak症候群1 (HPS1)など、正常なメラノサイト分化に関与する遺伝子の発現消失などに関連していた。このことから、メラノーマ進行の諸段階は、独自の遺伝子発現シグネチャによって実際に特徴づけられ、メラノーマ患者の診断法および標的治療法の考案へ向けたすばらしい礎になると思われる。

doi:10.1038/nrc1637

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