不安定な先入観
Nature Reviews Cancer
2005年6月1日
TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)は、癌細胞系の大部分がこのリガンドによって誘導されるアポトーシスに感受性を示し、正常細胞にはこれがみられないことが確認されて以来、癌治療薬として関心がもたれてきた。しかし、さらに研究を進めると、一部の原発腫瘍細胞には、このような予測可能な反応がみられないことが明らかになった。しかも、Gerry Cohenらは最近の論文で、TRAIL受容体シグナル伝達経路に関する先入観が、誤解を招いている可能性があることを突き止めている。
大方の予想では、TRAILはすぐにでも臨床試験に入るとみられていたが、未だに第 I相および第II相が進められている状態である。遅れの原因の一部は、肝毒性の可能性である。とはいえTRAILは、これに抵抗性を示す腫瘍細胞をヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害因子によって感作させることができるため、依然として追究する価値のある治療薬である。
Cohenらは、患者28例から新たに外植した原発性慢性リンパ性白血病(CLL) 細胞について、いくつかのTRAIL製剤またはTRAIL受容体1 (TRAIL-R1)またはTRAIL-R2 (HGS-ETR1およびHGS-ETR2)のアゴニスティック抗体に対する感受性の検討に着手した。これにより、HDAC阻害因子の有無によって感受性が異なることがわかり、しかもなんと、HDAC阻害因子の存在下では、ほとんどのCLL細胞が、これまで考えられていたTRAIL-R2ではなく、 TRAIL-R1を通じてシグナルを伝達することがわかった。すなわち、現在臨床試験中の薬物で、TRAIL-R2を通じてシグナルを伝達する APO2L/TRAILおよびHGS-ETR2は、CLL細胞に対する作用がほとんどないことになる。しかも、蛍光細胞分析分離法からは、TRAIL- R1またはTRAIL-R2のいずれかを通じたシグナル伝達の予測に、受容体発現のレベルを用いることができないことが明らかになった。このことから、 CohenらはTRAILに対する選択的シグナル伝達経路を、治療前にin vitroで明らかにする必要があるとの結論を導いている。また、CLL細胞については、HDAC阻害因子とTRAIL-R1抗体とを併用すれば、迅速に進行するこの疾患の治療に効果があると思われる。
doi:10.1038/nrc1643
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