Research Highlights

ホリスティックデザイン

Nature Reviews Cancer

2005年5月1日

生物過程の調節因子としての特異的オリゴヌクレオチドリガンド(アプタマー)の将来性が現実のものとなり始め、いくつかの先導化合物について臨床試験が実施されている。Laura Cerchiaらは現在、細胞表面に存在する形の膜貫通受容体を標的にするアプタマー選択プロトコールの妥当性を確認している。産生されたアプタマーは、 RET 受容体チロシンキナーゼと特異的に結合し、その下流のシグナル伝達作用を阻害する。

RETの変異は、多発性内分泌腫瘍症候群2A型・2B型および家族性甲状腺髄様癌にみられる。細胞外領域のC634Y変異体は、この受容体の構成的活性化を引き起こす。Cerchiaらは、PC12細胞に発現した RETC634Y変異体を用いてアプタマーを単離するよう改変した試験管内人工進化(systematic evolution of ligands by exponential enrichment:SELEX)法を用いた。このin vivo法であれば、自然な生理学的条件下で膜貫通受容体にのみ結合するアプタマーが選択されると考えたのである。

Cerchia らはまず、2'-フルオロピリミジンRNAのライブラリを親PC12細胞とともにインキュベートし、細胞表面と非特異的に結合するアプタマーを除去した。変異受容体と特異的に結合するアプタマーを選択するため、この上澄みをPC12?RETC634Y細胞とともにインキュベートした。未結合配列を洗い流し、結合を勝ち取った配列をクローン化した。これにより得られたアプタマーは、組換え細胞外C634Y RETフラグメントと結合することはなく、Cerchiaらの全細胞法の強度がよくわかる。

この結合アプタマーをスクリーニングして、変異受容体のシグナル伝達を阻害する能力の有無をみたところ、いくつかがRETC634Yとその下流エフェクターである細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化をそれぞれ遮断した。驚いたことに、最強の阻害因子(D4)は、神経芽細胞腫細胞に自然に発現する野生型のヒトRETとも結合する。リガンドであるグリア細胞由来神経栄養因子 (GDNF)により受容体を刺激すると、D4は野生型RETおよびERKのリン酸化を遮断する。このアプタマーはまた、RET依存性の細胞表現型の変化を阻害する:野生型RET受容体を発現し、GDNFにより活性化するPC12細胞からの神経突起の成長は、構成的に活性なRETC634Y 受容体の発現後に、NIH-3T3細胞にみられる形態の変化と同じく、D4によって遮断される(図)。

以上のことから、D4は細胞分化、そしておそらくは形質転換に対するRETシグナル伝達の下流の作用を遮断しうるきわめて選択性の高いRETのアプタマーではないかと思われる。Cerchiaらは、この弁別的な全細胞SELEX法が、治療薬となるほかの先導化合物や、診断に用いられる細胞表面マーカーを単離する上で、有用になることを示唆している。

doi:10.1038/nrc1620

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