Research Highlights

何と呼ばれようとFISHは…

Nature Reviews Cancer

2005年5月1日

SRCの基質であるTKS5/FISHは足場タンパク質であり、形質転換細胞のポドソームに局在していることがわかっている。現在、Sealsらは、一部のヒト癌細胞のポドソーム形成、細胞外マトリックス分解および浸潤挙動においてTKS5/FISHが担う役割を特定している。

Seals らは、以前にSRC形質転換細胞でTKS5/FISHが細胞質からポドソームに移動することを明らかにしていたため、TKS5/FISHがポドソームの形成または機能に関与しているかどうかを示そうとした。

Seals らはまず、短い二本鎖(si)RNA技術を用いて、SRC形質転換NIH3T3細胞(Src3T3細胞)でのTKS5/FISHの発現をノックダウンした。TKS5/FISHの発現が低下すると、Src3T3細胞はTKS5/FISH発現が正常な細胞よりも大きな扁平型となり、ポドソームが少なくなった。さらに、TKS5/FISHノックダウン細胞に、TKS5/FISHのヒト相同体(siRNAの影響を受けなかった)のcDNAを顕微注射したところ、これを注射しなかった細胞と比較して、ポドソーム形成が復活した。すなわち、TKS5/FISHは、ポドソームの形成速度を律するものである。

Seals らは次に、TKS5/FISHノックダウン細胞は(癌の細胞浸潤に重要な機能である)細胞外マトリックスタンパク質の効率的な分解ができないが、正常 Src3T3細胞はマトリックスタンパク質をポドソームと一致する不連続な場所で分解していることを明らかにした。ヒトTKS5/FISH cDNA を顕微注射したところ、TKS5/FISHノックダウン細胞のこの能力が復活した。同じく、TKS5/FISHノックダウン細胞の浸潤性は、正常 Src3T3細胞よりも低かったが、その基本的な運動性には影響がないようであった。すなわち、この細胞系でのポドソーム形成、マトリックスタンパク質分解および浸潤性には、TKS5/FISHが必要なようである。

Sealsらはさらに、ヒト癌細胞でのTKS5/FISHの役割に注目した。浸潤性の低い癌の細胞系におけるTKS5/FISHタンパク質発現レベルは、浸潤性の高い癌の細胞よりもはるかに低いことがわかった。しかし、TKS5/FISH mRNAレベルと浸潤性は必ずしも相関していなかったことから、TKS5/FISH発現のコントロールはタンパク質レベルでも生じているのではないかと考えられる。

転移乳癌および皮膚組織の試料を免疫組織化学検査に供したところ、そのTKS5/FISH発現量は、相当する正常組織の試料と比較して多かった。そして、 Src3T3細胞から得た結果と同様に、TKS5/FISHはヒト癌細胞系の至適浸潤性およびマトリックス分解に必要なようであった。さらに、マトリックス浸潤アッセイにプロテアーゼ阻害因子を加えると、TKS5/FISHがプロテアーゼを介する浸潤に必要であることが明らかになった。Sealsらは最後に、通常はTKS5/FISHの発現レベルが低い浸潤性の低い癌細胞系を用いて、TKS5/FISHが過剰発現すると、活性SRCの存在下でポドソーム形成が促されることを示した。

Sealsらは、以上の所見が、TKS5/FISHとその結合タンパク質についてさらに検討することの正しさを裏付けるものではないかとし、TKS5/FISH発現を利用してポドソーム形成を誘導する能力が、浸潤癌のマーカーおよび治療標的の両方を特定する目的で、ポドソーム形成に関与する経路を細かく分析するのに役立てば、と期待している。Sealsらはさらに、データベース検索にまつわる問題が起こらないよう、元々のクローン名であるTKS5でこのタンパク質を識別することを提唱している。

doi:10.1038/nrc1602

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