小柄で強力
Nature Reviews Cancer
2005年4月1日
ヒト肝受容体相同体1 (LRH1)は、ホルモン感受性乳癌の進行にきわめて重要な役割を担っている。その構造および機能的相互作用に関する最近の分析から、LRH1が乳癌の進行を遅らせる可能性のある低分子阻害因子の標的となりうることがわかっている。
LRH1 は核受容体であり、コレステロール代謝および脂質代謝に関与する遺伝子など、いくつかの遺伝子の発現を直接的にも間接的にもコントロールしている。特に興味がもたれるのは、ホルモン合成に関与する遺伝子、特に乳癌の前駆脂肪細胞に発現し、エストロゲン合成酵素(アロマターゼ)をコードするCYP19のコントロールである。
LRH1 は、よく見られるさまざまな転写共調節因子と相互作用するが、その構造のAF-2として知られる特定の部分は、このような相互作用に最適ではない。しかし、短いヘテロダイマーパートナー(SHP)は、LRH1と効率的に相互作用することができ、多くの組織でのその活性を抑制する。以上のことから Ortlundらは、LRH1を介する転写コントロールおよびSHPによるLRH1活性コントロールの基本構造の解明に乗り出した。
LRH1のリガンド結合領域を分析したところ、なんと、リン脂質のホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルグリセロールと結合することがわかった。さらに、SHPの核受容体ボックス1モチーフ(LRH1表面の溝に結合する) のさまざまな特徴が明らかになり、LRH1は、SHPに加え、DAX1およびPGC1 といったほかの核共調節因子を「好む」ことがわかった。また、LRH1のAF-2領域にあるヘリックス12 (H12)の構造分析を実施することによっても、SHPとLRH1との一連の接触がH12の位置を「固め」、一般的なコリプレッサーに対するLRH1の親和性が弱まって、SHP、DAX1およびPGC1 に対する親和性が高まることが明らかになった。LRH1とPGC1 との相互作用が、CYP19の発現、ひいては乳癌の局所的な腫瘍増殖を促進するエストロゲン産生にとって極めて重要であるというのは意味深い。
次にOrtlundらは、LRH1の脂質結合ポケットの入り口近くにある2つのアミノ酸残基を変異させて、このポケットをわかりにくくすると、LRH1によるリン脂質結合レベルが低下し、その転写活性が大幅に低下することを示した。さらに、グルタチオンSトランスフェラーゼ・プルダウン法および哺乳類のツーハイブリッド実験により機能を検討したところ、LRH1と結合するリン脂質の量が、哺乳類の細胞におけるその活性に影響を及ぼすことが明らかになった。
このように、以上の結果はこれまでの諸研究と同じく、リン脂質が転写調節においてきわめて重要な役割を担っていることを示している。しかも、LRH1がリガンドによる調節を受けることが明らかになったということは、それが低分子阻害因子の標的候補になるということである。乳癌発生においてLRH1の役割がきわめて重要であるとすれば、このような阻害因子は乳癌治療に有用となりうる。
doi:10.1038/nrc1597
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