縞々の代役
Nature Reviews Cancer
2005年4月1日
ヒトメラノーマのほとんどは、セリン/スレオニンキナーゼBRAFが変異を来しているが、これに相当する変異を有する動物モデルがないなどの理由により、腫瘍形成におけるこの酵素の役割はよくわかっていない。E. Elizabeth Pattonらは、ゼブラフィッシュを用いて、BRAFが遺伝学的にp53経路と相互作用してメラノーマを引き起こしていることを明らかにしている。
ゼブラフィッシュの特徴的な縞模様はメラニンによるもので、そのメラニン産生細胞は哺乳動物のメラノサイトときわめて類似している。この理由は、それらが同じ胚細胞系譜(神経冠)に由来し、メラノサイト分化を制御する遺伝子の少なくともひとつが、マウスおよびゼブラフィッシュと相同なためである。Pattonらは、脊椎動物のメラノサイトの正常な増殖および発生が進化論的に保護されているのであれば、その機能不全性増殖も起こりうるのではないかと考えた。
Pattonらは、1細胞期のゼブラフィッシュ胚に、最もよくみられる活性化変異(V600E)をもつヒトBRAF遺伝子を、メラノサイト特異的mitfaプロモーターのコントロール下で顕微注射した。そこから発生した魚の約10%には、f-neviというほくろ様の増殖メラノサイト巣が生じていた。f-neviのメラノサイトは分化度が高く、周囲組織には浸潤していないようであった。すなわち、活性化BRAFV600E変異は、メラノサイトの拡大を引き起すには十分であるが、メラノーマの進行にはそれ以上の変異が必要なようである。
BRAFの変異のほか、ヒトメラノーマにはCDKN2A座がないことが多い。この遺伝子座は、p53経路で機能する腫瘍抑制タンパク質ARF をコードする。メラノーマのp53変異は稀であるが、この経路の不活化はメラノーマの形成に関わってきた。Pattonらは、p53経路の機能低下が、 BRAFが変異したメラノサイトによる浸潤癌形成をさらに後押ししているのではないかとの考えをめぐらせている。
TP53の変異がホモ接合の胚にmitfa-BRAFV600E を注入したところ、魚の約6%が4カ月齢までに悪性メラノーマを発症した。メラノーマ細胞はメラニンを発現し、形態学的にヒトメラノーマ細胞と類似していた。この細胞を野生型のゼブラフィッシュに移植すると(f-neviの細胞とは異なり)迅速に拡大し、その89%に、ヒトメラノーマにみられるものと類似した染色体異常が認められた。
このゼブラフィッシュメラノーマモデルによって、Pattonらは、このような魚を用いて悪性表現型を引き起こす遺伝的相互作用を探索できることを示し、この疾患の根底には実際にBRAF変異があるという証拠をもたらした。
doi:10.1038/nrc1593
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