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Nature Reviews Cancer

2005年4月1日

プロテアーゼ活性化受容体(PAR)は、Gタンパク質共役受容体で、細胞外プロテアーゼ較差のセンサとして作用し、発生時、炎症時および血管形成時のほか、癌においても、組織リモデリング中にタンパク質を分解する微小環境に細胞を反応させる。Athan Kuliopulosらは、癌の浸潤および転移におけるPARの役割を検討しようとし、その中で、新しいPARプロテアーゼおよび浸潤細胞と細胞外マトリックスとの新たな関係を発見した。

Kuliopulosらは、メラノーマ、乳癌、大腸癌、肺癌、膵癌、前立腺癌の浸潤および転移に関与していると久しく考えられてきた癌遺伝子PAR1に注目した。PAR1は、トロンビン、プラスミン、Xaおよび活性化プロテインCなど選択されたセリンプロテアーゼ群に応答する。これはPAR1細胞外領域に結合し、膜貫通シグナル伝達を誘導するが、不思議なことに上記プロテアーゼのうち、 PAR1依存性乳癌細胞の浸潤特性にとって決定的なものはない。

Kuliopulosらは、浸潤時の乳癌細胞と間質との相互作用におけるPAR1の役割を検討するところからはじめ、乳癌細胞が遊走して線維芽細胞由来の培地に向かうには、「タンパク質分解可能な」PAR1が必要であり、「タンパク質分解能が消失した」PAR1を移入した細胞は、遊走できないことを明らかにした。

Kuliopulosらは次に、MCF-7細胞(早期の乳癌細胞に類似)にPAR1を移入し、それをヌードマウスの乳腺脂肪体に注入することによって、in vivoにおけるPAR1の発癌性および催浸潤性が高いことを確認した。Kuliopulosらがさらに、siRNAを用いて、発癌性の高い細胞系MDA-MB- 231のPAR1レベルをノックダウンするという逆の実験を実施したところ、遊走および浸潤が著明に減少した。PAR1が乳癌細胞に浸潤特性および遊走特性をもたらしているのであれば、どのプロテアーゼがそれを活性化しているのだろうか。

Kuliopulosらは、一連のプロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害因子について、PAR1発現乳癌細胞の遊走に影響を及ぼす能力をin vitroで検証した。すると、驚いたことに、遊走を誘導することがわかった基質プロテアーゼは、マトリックスメタロプロテイナーゼ1 (MMP1)のみであった。さらに、線維芽細胞が分泌するMMP1がPAR1と結合することが示され、MMPがGタンパク質共役受容体を直接活性化することが、初めて明らかになった。腫瘍に動員される間質線維芽細胞および炎症細胞がMMPを発現することは既にわかっており、MMP1は乳癌、大腸癌および食道癌の予後不良マーカーである。このこととKuliopulosらの所見とを総合すると、乳癌細胞は線維芽細胞由来のMMP1およびPAR1を化学走性シグナルとして利用し、周囲の間質組織を浸潤できることになる。

Kuliopulosらによると、いくつかのMMP阻害薬がさまざまな癌を治療する第III相臨床試験ですでに検討されているが、患者にはMMP1阻害によるものと考えられる関節毒性が生じている。PAR1またはMMP1を治療標的として研究することにより、いずれかの標的をin vivoで阻害すれば、腫瘍の増殖、浸潤および血管分布が大幅に減少し、MMP1を遮断する治療の下流標的としてPAR1を利用できることがわかった。

doi:10.1038/nrc1601

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