ぞっとする結論
Nature Reviews Cancer
2005年4月1日
Chicaらが妊娠中の喫煙が及ぼす影響に関するプロスペクティブな研究を実施して到達した結論によると、母体による喫煙は、小児白血病に関わってきた染色体変化など、胎児の染色体不安定性を増大させる。
喫煙が発達中の胎児に及ぼす影響を検討した研究は多いが、DNA損傷の増大は、母体血清、出生後に採取した血球または絨毛膜絨毛といった代用組織を用いて明らかされたものである。Chicaらは、その代わりに羊水細胞を調べた。これは、胎児そのものを表すため、ここで検知された染色体異常からは、in uteroでタバコ煙に曝されることで発達中の胎児にどの程度の直接的な影響が及ぶかがわかる。
Chica らは、染色体損傷を引き起こすことがわかっているほかの因子を除外する目的で入念な問診を実施し、出生前診断のためにルーチンの羊水穿刺を必要とし、茶、コーヒー、アルコールのいずれも摂取していない女性を特定した。Chicaらはこの中から、健常な妊娠女性50例を組み入れた。このうち半数は過去に少なくとも10年間の喫煙歴があり、かつ妊娠中も喫煙を続けていたが、残る半数は喫煙歴がなく、かつ受動喫煙も受けていなかった。母体の年齢は、偶然、喫煙グループの方が高かったが、慎重な統計解析によると、年齢差がこの試験の所見に有意な影響を及ぼさないことは明らかである。
Chicaらは、毎回の羊水穿刺で得られる羊水細胞を用いて中期染色体スプレッドを 100個分析し、染色体の損傷または異常の有無をみた。遺伝子不安定性の証拠は両グループに認められたが、染色体構造異常の発生率は、喫煙歴のないグループの羊水細胞(3.5%)に比べて妊娠中も喫煙していたグループの羊水細胞(12.1%)の方が、有意に高かった。
両グループについて詳細な細胞遺伝学的分析を実施したところ、染色体切断点はランダムではなく、既知の脆弱部位の染色体バンドと相関していることが明らかになった。特に、非喫煙者よりも喫煙者の方が、染色体領域5q31、17q21および11q23に影響を受けており、5q31.1および11q23は既知の脆弱部位と一致していた。以前の報告では、タパコの煙への曝露がin vivoで脆弱部位および染色体不安定性を増大させること、これが腫瘍形成に寄与しうることがわかっており、興味がもたれる。
白血病乳児の多く(40?60%)では11q23が再編成されており、この再編成がin uteroで起こることを示唆した研究者もいる。Chicaらの所見はこの仮説を裏付けるものであり、白血病を発生させる遺伝子ATM、PLZFおよびMLLが11q23にあることを考えれば、さらに検討を重ねる理由は十分にある。ただし、喫煙者の子孫で癌の生涯リスクが増大するかどうかを明らかにするには、大規模な疫学研究が必要である。
doi:10.1038/nrc1598
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