Research Highlights

治癒過程

Nature Reviews Cancer

2005年4月1日

腫瘍は、「決して癒えない傷」としばしば言われてきた。Marc van de Vijverらは、遺伝子発現プロファイリングを用いて創傷と腫瘍とを直接比較し、傷害応答遺伝子発現パターンから、乳癌患者の転移および生存の可能性を実際に予測できることを突き止めている。

マトリックスリモデリングの活性化、細胞運動および血管形成など、創傷治癒に関与する過程は、腫瘍進行に通じるものがある。Van de Vijver らは以前に、創傷治癒応答を仲介する細胞の遺伝子発現パターンを分析することによって、この過程の代表として細胞周期遺伝子を排除する「コア血清応答」シグネチャを同定している。以前の研究では、乳癌、肺癌および胃癌などの一般的な上皮性腫瘍にこの傷害応答シグネチャが発現していれば全生存率が低く、転移リスクが高いと予想されることが明らかになった。

Van de Vijverらは、大規模な独立したデータセットで上記所見の裏付けにあたった。乳癌患者295例のデータベースを用いて、コア血清応答遺伝子459個中 280個の発現を比較し、傷害応答シグネチャと乳癌進行との関係の再現性を検証したのである。これにより、傷害応答シグネチャが活性化した腫瘍が転移しやすいことを突き止めた。しかも、このような腫瘍を有する患者は生存期間が短かった。

早期乳癌と診断された患者の遠隔転移リスクは30%である。原発腫瘍を手術で摘出したのち、全身アジュバント化学療法および/またはホルモン療法を実施すれば、このリスクは低下しうる。傷害応答シグネチャを用いると、のち(10年後)に転移した患者をさらに正確に特定することができ、傷害シグネチャが活性化した患者の49%が、遠隔転移を来していた。以上のことから、このシグネチャをほかの予後検査に追加することで、アジュバント化学療法を控えてもいい患者と、治療を強化するよう奨める必要がある患者とを識別できるようになる。

Van de Vijverらはこのほか、上皮性腫瘍で傷害応答を活性化し、維持して、最終的には停止させる分子機序を特定すれば、標的治療法につながるのではないかとの結論を導いている。

doi:10.1038/nrc1596

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度