煙と鏡
Nature Reviews Cancer
2005年3月1日
食道腺癌の発生率に関する統計を見ると不安になる。1975年から2001年の間に、米国で診断を受けた症例数が約6倍に増大しているためである。しかし、これは実際の疾病負荷を反映しているのだろうか。それとも、この癌の検知方法が変化したためにそう見えるのだろうか。Heiko PohlとH. Gilbert Welchはデータを改めて吟味した。
米国における2001年の食道腺癌診断は、人口百万人あたり23例である。これでもまだ稀ではあるが、1975年の百万人あたり4例からは著明に増大している。同期間には、食道に愁訴のある患者に対する内視鏡を用いた検査件数も増大していることから、症状が出ない食道癌であっても、ほかの原因で患者が死亡する前に検知されているのではないかと考えられる。スクリーニングプログラムの導入によって前立腺癌発見が外見的に漸増したのは、このような過剰診断が原因である。
しかも米国では、別の食道の主要な癌である扁平上皮細胞癌の発生数が百万人あたり 31例から19例に減少している。このことから、食道腺癌が見かけ上増大しているのは、組織学的基準の変更によって分類が変わり、以前は扁平上皮細胞癌といわれていたものが、腺癌に分類されることが多くなったためではないかと考えられる。
PohlとWelchは、食道腺癌の報告が増加している理由が過剰診断または分類変更のいずれによるものなのかを明らかにするため、国立癌研究所のサーベイランス・疫学・最終結果(SEER)データベースを用いて、食道腺癌をはじめとする数種類の癌の発生率、病期および死亡率の統計を分析した。そして、早期(in situ または限局性の腫瘍)の段階で発見された食道腺癌の割合が同期間中にわずかしか増大していないことを理由に、過剰診断が関与している可能性は低いと報告している。
さらに、分類変更があったようでもない。ある食道癌が、現在、別の癌に分類されていても、食道部の癌全体の解剖学的分布は変わらないはずである。しかし、発生率が増大しているのは、腺癌の最頻発部位である食道の下部1/3の領域である。PohlとWelchはこのほか、同期間には胃腺癌の症例数も増大していることから、胃腺癌への分類変更も否定している。食道腺癌の発生率が明らかに増大しているのは事実であり、この傾向は、まだ特定されていない危険因子の保有率が増大したことに起因するとの結論を導いている。
doi:10.1038/nrc1575
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