感受性か、抵抗性か?
Nature Reviews Cancer
2005年3月1日
上皮増殖因子受容体(EGFR)の体細胞変異は非小細胞肺癌に頻発しており、これにより、ゲフィチニブ(イレッサ)およびエルロチニブ(タルセバ) など、この受容体チロシンキナーゼを標的にした薬物に対する患者の反応がわかる。William Paoらは、上記薬物に対して患者がどのように反応するかがわかるほかの遺伝因子を探索するなかで、ゲフィチニブまたはエルロチニブに抵抗性を示す肺腺癌患者の大部分に、KRAS変異が潜んでいることを発見した。
KRASは、EGFRをはじめとする多くの受容体チロシンキナーゼの下流因子である。EGFRと同じく、KRASも肺癌での変異率が高い(15?30%)が、両遺伝子の変異を有する腫瘍はきわめて少なく、腫瘍形成において、機能的に同等の役割を担っていることがわかる。Paoらは、特定のEGFR変異がゲフィチニブおよびエルロチニブに対する肺癌の感受性を高めることが判明していることから、患者の反応性に影響を及ぼすと考えられているこのシグナル伝達経路にほかの変異がないかどうかをみた。
Paoらは、ゲフィチニブまたはエルロチニブの単剤療法に感受性を示すか、または不応性であるかよって、60例の肺腺癌試料を分類した。次に、KRASの変異の有無についてこの試料を評価したほか、対照としてEGFRの変異をみた。上記いずれかの薬物に感受性を示す癌の患者から採取した試料22個には、KRAS変異がまったく認められなかった。しかし、いずれかの薬物に不応であった患者から採取した腫瘍を検査したところ、38例中9例(24%)の試料にKRAS変異が認められた。KRASのエキソン2の変異は、上記いずれかの薬物に対する抵抗性と相関していたが、エルロチニブで治療した患者のKRAS変異の発生率は低かった(腫瘍4個のみ)。しかし、以前の試験と同じく、薬物感受性腫瘍の77%にEGFR変異があり、治療に対して不応性であった患者から採取した腫瘍試料に、この遺伝子の変異はまったくなかった。
以上の所見によると、KRAS変異を有する肺腺癌患者は、上記いずれかの薬物で治療しても、腫瘍が退縮する可能性が薄い。ただし、以上の所見は今後、プロスペクティブな大規模臨床試験でその妥当性を確認する必要がある。このほか、KRAS変異がEGFR阻害薬に対する抵抗性をどのように調節しているのかを明らかにする必要もある。
doi:10.1038/nrc1577
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