Research Highlights

MYC依存症?

Nature Reviews Cancer

2005年2月1日

種々モデル系を用いた諸研究からは、腫瘍がその出発点である癌遺伝子に「耽溺する」ことがわかっているため、単一の主経路を一時的に標的にすることで癌を治療できるのではないかと考えられている。たとえば、実験腫瘍系のMYCを不活化すると、さまざまな腫瘍の悪性が無効化することがわかっている。しかし、Lewis Chodoshらは、乳腺癌細胞はその限りではなく、標的治療が思いのほか困難であると報告している。

これまでに用いられたいくつかのトランスジェニックマウスモデルによると、腫瘍は進行期にあっても、MYCまたはRASといった個々の癌遺伝子によって活性化される経路に依存している。そのため、他にも多くの遺伝的および後成的な変調はあるものの、こうした経路のいずれかひとつを標的にすれば腫瘍は退縮することになる。しかし、こうした所見は、上皮組織の転移癌患者が、単剤療法はもちろん併用療法によっても稀にしか治癒しないという臨床所見と相反する。Chodoshらは、ヒト上皮腫瘍にこれまで以上に酷似した(ヒト乳癌の5%〜15%にMYC増幅が生じる)乳癌のトランスジェニックマウスモデルを作製し、誘導プロモーターを用いてこの癌遺伝子を乳腺特異的に過剰発現させた。

上記マウスは乳腺癌を発症したが、ほかのMYC活性化マウスモデルとは異なり、MYC導入遺伝子のダウンレギュレーションにより退縮した腫瘍は半分にも満たず、そのほとんどが、MYCが過剰発現しなくても増殖する能力を迅速に獲得した。しかも、完全に退縮した腫瘍の半分以上が、MYCの過剰発現なしに原発部位で自然再発した。自然再発しなかった腫瘍も、MYCをわずかに再発現させただけで迅速に勢いを盛り返したことから、再び完全に悪性化するまであと一歩のところまできた細胞が残っていることがわかった。以上のことから、この癌遺伝子を一時的に不活化しても、乳腺上皮細胞の腫瘍の進行を止めるには十分でないと思われる。

こうした腫瘍がMYC不在下で生き延びられるのはなぜか。Chodoshらによると、MYC非依存性乳癌の多くにはKRAS変異が潜んでいるが、MYC非依存性の根底には、ほかにも複数の機序が存在する可能性がある。Chodoshらは、血液の癌や肉腫といった一部の癌では、MYCの不活化により細胞が分化するために、腫瘍の再発が予防できるとしている。MYCをダウンレギュレーションしても乳癌細胞をはじめとする上皮細胞が最終分化しないという事実は、MYC不活化に対する抵抗性の理由となりうる。以上のように、癌遺伝子依存性は状況によって異なり、一般的なヒト上皮癌には、標的薬による長期の併用治療が必要と見られる。

doi:10.1038/nrc1560

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