致死のバリエーション
Nature Reviews Cancer
2005年2月1日
化学療法薬のなかには、重度のDNA損傷を引き起こして細胞死の引き金を引くものがある。しかし、この引き金が正しく機能しなければ、DNA損傷そのものが、迅速に複製されて癌化すると考えられる。James Allanらは現在、化学療法の発癌性につながる遺伝的変異を明らかにしている。
色素性乾皮症グループD (XPD)遺伝子は、ヌクレオチド除去修復(NER)に関与するDNAヘリカーゼをコードする。XPDの共通変異のひとつ、コドン751:リシン→グルタミン変異は、タンパク質機能に影響を及ぼし、特定のDNA損傷に対する細胞反応を変化させるのではないかと考えられている。NERは一部の骨髄性白血病の成因に関与していることから、Allanらは、XPD NERの効率が、白血病治療に用いる化学療法の有効性のほか、既存の癌に対する化学療法後の白血病発症リスクにも影響を及ぼすのではないかとしている。
Allanらは、急性骨髄性白血病(AML)で化学療法を受けている高齢患者341例について検討している。化学療法後、Gln変異をもつ患者の生存率は有意に低く、そのためにXPDコドン751多型を高齢のAML患者の予後マーカーとして利用できるのではないかと考えるにいたった。
Allan らはさらに、DNA損傷を引き起こしてNER機構を誘導するアルキル化薬で既存の癌を治療したのちにAMLを発症する個体は、グルタミンをコードする対立遺伝子が著しく過剰に表れていることを突き止めた。それに反して、グルタミンをコードする対立遺伝子と、放射線療法後に発症したAML患者との間に関連性は見られなかった。これで完全につじつまが合う。放射線療法によるDNAの一本鎖切断および二本鎖切断がNERを開始させることはない。
しかしなぜ、XPDコドン751 Gln変異体もつ人々は、AMLを発症しやすいのだろうか。Allanらは、癌性白血病細胞のみならず正常骨髄細胞でも、アルキル化薬によるアポトーシスの誘発にXPDが直接的または間接的に関与することを示唆している。コドン751多型は、XPDがp53と相互作用してp53依存性アポトーシスを誘導する能力に影響を及ぼすとの仮説がある。また、コドン751変異体は、化学療法薬による前毒性DNA損傷のNER効率に影響を及ぼすことによって間接的に、骨髄性細胞死を調節している可能性がある。
以上のことから、化学療法後に細胞死を誘発できなければ、白血病細胞がアポトーシスを免れて、その患者の予後が不良になるのみならず、損傷を受けた骨髄細胞が死滅せず、AMLのリスクも高くなる。Allanらは、治療による白血病発生についての理解をさらに深めるには、今後、細胞死の引き金を引く経路に関する研究を行う必要があると指摘している。
doi:10.1038/nrc1553
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