Research Highlights

家族の結束

Nature Reviews Cancer

2005年2月1日

癌の病因には、遺伝因子と環境因子との微妙な相互作用が関与していることが多い。Kari Stefanssonらが実施した最近の研究では、癌発生率の統計と詳細な系譜データとを組み合わせて、種々癌におけるこうした因子の相対的寄与および癌の家族内分布に関する情報を解きほぐすことの価値が強調されている。

Stefanssonらは、アイスランド癌レジストリのデータおよびアイスランド人の deCODEU遺伝学の系譜データベース(二大包括的データセット)を用い、検討した癌27種類のうち22種類は、同じ癌が発生する可能性が一般集団よりも近親者で高いことを明らかにした。さらに、この22種類のうち8種類は、癌の罹患者が遠い親類(3〜4親等)のみであっても、その癌が個体に発生するリスクは依然として有意に高かった。

では、どの癌がこの「家族集積性」を示したのか。近親者にとって最もリスクの高かった(3倍以上)のは、リンパ性白血病およびホジキン病、甲状腺、髄膜、口唇、精巣および喉頭の癌であった。甲状腺癌を除き、本研究ではいずれも最も頻度の低い部位であった。これは、稀な腫瘍ほど浸透度の高い単一の遺伝子の作用によって決まる形質(メンデル形質)に起因する可能性が高く、一般的な癌は遺伝学的に複雑であるためと思われる。また、一般集団に広まっているという事実そのものが、多くみられる癌はベースライン頻度が高く、そのためにデータのサブセットにあるこうした癌のリスク推定力が制限されることを意味している。

Stefansson らはこのほか、家族内における特定の癌の存在が、その親類の別の部位に癌が生じる可能性にどう影響するかを検討し、血縁の遠近を問わず、異なる発癌部位間の家族集積性が有意に高いことを突き止めた。胃癌および前立腺癌は、ほかの癌と関係していることが最も多く、これに続くのが大腸癌、卵巣癌および子宮頸癌であった。発癌部位間の結びつきは、遺伝的な症候群の既知の高リスク遺伝子によって説明できるものもあれば、そうでないものもあった。たとえば、肺癌、食道癌、子宮頸癌および胃癌の間には家族集積性が認められており、Stefanssonらは、この発癌部位間の「過度の親密性」は、遺伝子と環境との相互作用によって説明がつくとしている。すなわち、同じ環境因子は同じ遺伝因子と相互作用して、別の癌を引き起こす(たとえば、肺癌および子宮頸癌に対する喫煙)か、または異なる環境因子が同じ遺伝因子と相互作用して、別の癌を誘発する(たとえば、肺癌に対する喫煙および子宮頸癌に対するヒトパピローマウイルス)のではないかと考えられる。

留意すべき重要な点は、リスクが最も高い癌でも、親類にとっての絶対リスクの増大は依然として小さいことである。とはいえ、遺伝カウンセラーがこの研究と、癌は場合によって、家系の広い範囲にわたって考慮する必要があるという含みに関心を示すことは間違いない。以上の結果はこのほか、以前は無関係とされていた癌の間にも関連性が有ることを示し、今後検討を進める方向をはっきりさせたという点でも有益である。

doi:10.1038/nrc1557

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