Catch-22
Nature Reviews Cancer
2005年2月1日
BCL2が過剰発現すると、アポトーシスが阻害されて発癌が促進される。Ho Jin Youらは現在、BCL2がこのほか、DNA修復の抑制によって、細胞周期停止における独立の機能を通じて変異をも促進することを明らかにしている。
You らはまず、アルキル化薬MNNGによる治療が、誘導性BCL2を有する細胞系に及ぼす作用を検討した。BCL2の発現が誘導されると、その細胞は、対照細胞にくらべてMNNGによる細胞死に対する抵抗性が大きくなり、自然変異およびMNNGによる変異も多かった。ミスマッチ修復(MMR)活性の低下は、 BCL2誘導の程度と相関していた。細胞周期停止を誘導できないBCL2変異体を発現する細胞は、対照細胞と比較しても、抗アポトーシス欠陥BCL2変異体を発現する細胞と比較しても、MNNG変異に対する抵抗性が大きかった。しかも、MMR活性が低かったのは、抗アポトーシス欠陥BCL2変異体を発現する細胞のみであった。このことから、BCL2による細胞周期停止は、BCL2を介するMMR抑制に重要であるが、抗アポトーシス機能は関与していないことがわかる。
ではとのようにして、BCL2はMMRを抑制するのだろうか。You らは、BCL2誘導後の細胞は、MMRタンパク質MSH2のmRNAが有意に減少していることを発見した。MSH2がE2F 応答遺伝子であることから、You らは、この転写因子の不活化が、BCL2によるMSH2抑制に介在しうるかどうかを検討した。BCL2を発現する細胞は、BCL2の発現が誘導されていない場合と比較して、E2F1を不活性のまま維持するリン酸化RBと結合しているE2F1が多く、E2F1とMSH2プロモーターとの結合が少なかった。さらに、E2F1をターゲットにするsiRNAsをBCL2発現細胞に加えると、MSH2発現が少なくなり、MMR活性が低下した。
You らは、BCL2が過剰発現するヒトB細胞リンパ腫細胞系2種にも同じMMR抑制機序があるが、BCL2を発現しない別のB細胞リンパ腫細胞系にはないことを確認している。以上のデータによると、細胞周期停止が細胞を発癌から保護しているとは到底言えず、実際には変異を引き起こしている。以上の所見は、(成長が不可逆的に停止する)老化細胞が蓄積していく加齢過程で、発癌率が指数関数的に上昇する理由を説明するのに役立つと思われる。
doi:10.1038/nrc1552
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