マウスとヒトの
Nature Reviews Cancer
2005年1月1日
腫瘍形成において影響を受ける遺伝子のプロファイリングにマイクロアレイを用いることは、現在かなり一般的であるが、ヒトの腫瘍における遺伝子の特性を明らかにするのに、マウスモデルから得たこのようなデータセットを用いることはできるだろうか。
ヒト肺腺癌は、癌遺伝子KRASの変異に起因することがわかっている。Tyler Jacksらは、組織学的にはヒト癌と類似したKrasによる肺癌のマウスモデルを用い、ヒト癌のKRAS 変異遺伝子シグネチャーを同定した。
Jacksらはまず、Affymetrix社のアレイを用い、Kras駆動型の肺癌と正常マウス肺とを比較することによってデータを収集し、レギュレーションの異なる遺伝子のプロフィールを作成した。さらに、Gene Set Enrichment Analysisという統計的手法を用い、マウス肺腺癌はヒト肺癌サブセットやほかの組織の腺癌と比べ、ヒト肺腺癌と最も類似していることを明らかにした。しかし、Jacksらはこの分析をさらに進めようとし、ヒト肺腺癌にKRASを介する遺伝子プロフィールのシグネチャーを同定できるだろうかと考えた。Jacksらは、KRAS野生型肺腺癌と比較してヒトKRAS変異型を分析してもKRASシグネチャーは認められないが、マウスKras遺伝子データを追加すると、ヒト癌のKRAS遺伝子シグネチャーが明瞭となることを示した。しかし、これはマウスにおけるKras発現に反応してアップレギュレートされた遺伝子のみに当てはまる。
このシグネチャー遺伝子は、シグナル伝達下流のKRASレベルの影響を受けるのだろうか。Jacksらはこのことに取り組むため、変異型KRAS が発現することがわかっているヒト肺癌細胞系と、野生型KRASが発現する細胞系とを比較した。RNA逆転写後のPCRでは、KRAS シグネチャーデータセットから選択した遺伝子9個のうち8個は、変異KRASを発現する細胞における発現が少なくとも2倍であることが確認された。さらに、変異KRAS細胞系の遺伝子プロフィールを、KRAS発現をターゲットとするRNA-interference (RNAi)コンストラクトを発現する同じ細胞のものと比較したところ、相当数のシグネチャー遺伝子がダウンレギュレートされていることがわかった。この遺伝子が、変異KRAS経路の真の標的であることは間違いないが、変化のなかった遺伝子もあれば、かえって増大した遺伝子もあり、RASを介する流れにおける腫瘍の進行には、RASによる調節を受けないほかの遺伝子の変化が依然として重要であることがわかる。
肺腺癌と診断される患者のほとんどは、この癌が原因で死亡する。この癌の妥当なマウスモデルおよびKRAS遺伝子シグネチャーを共に特定すれば、抗癌治療標的としてRAS経路の新規標的特定の一助となるはずである。
doi:10.1038/nrc1540
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