思いもよらない起源
Nature Reviews Cancer
2005年1月1日
Helicobactor pylori感染およびそれに付随する慢性胃炎から、腺癌に至ることは多い。炎症部位には骨髄由来細胞(BMDC)が動員されるが、JeanMarie Houghtonらは現在、実際にはこの細胞がHelicobactorによる胃癌に寄与していると報告しており、胃癌は上皮起源であるとする一般的な見方に一石を投じている。
Houghtonらは、Helicobactor felisをマウスに感染させて胃癌を引き起こし、胃癌発生におけるBMDCの役割を検討した。雌マウスに致死量の放射線を照射し、雄の骨髄を -ガラクトシダーゼ( -gal)またはグリーン蛍光タンパク質(GFP)で標識してこれを移植した。H. felis 感染から3週間すると、激しい骨髄性の炎症を来した。感染から20週間後には、胃粘膜のアポトーシスレベルが上昇し、 -gal陽性またはGFP陽性の腺が現れた。52週までには、近位粘膜の90%が -gal陽性またはGFP陽性の BMDCに代わっていたが、このBMDCはさらに化生性粘膜細胞に発現し、癌にもよく過剰発現するtrefoil factor (トレフォイルファクター) 2陽性でもあった。この段階における組織は、化生および異形成の組織学的徴候を呈しており、感染から1年後には、粘膜内癌または高悪性度消化管上皮内腫瘍 (GIN)が認められた。BMDCから成るGIN病変は、 -galおよびGFP陽性であるばかりでなくY染色体をもち、活発に増殖してサイトケラチンなどの標準の上皮マーカーも陽性となったが、造血細胞マーカー CD45は陰性であった。Houghtonらは、BMDCが胃上皮の表現型に分化したと結論付けた。
感染させなかったマウスにはBMDCの定着がまったく見られず、急性胃潰瘍や主な胃上皮細胞のひとつの欠損といったほかの組織損傷のいずれにも、BMDCの動員が起こらなかったことから、この表現型にはHelicobactor感染が必要なようである。癌細胞の起源として、BMDCと胃上皮細胞との融合の可能性が除外された点は重要である。
では、骨髄細胞のどの集団が、Helicobactorによる胃癌の原因になっているのだろうか。Houghtonらは、胃上皮細胞の初代培養細胞から得た可溶性因子とともに、造血幹細胞または間葉幹細胞を培養した。トレフォイルファクター2など胃粘膜細胞遺伝子の発現パターンがアップレギュレートされたのは、間葉幹細胞のみであった。
以上のデータは、慢性炎症からの上皮癌発生に関して、発癌および進行に対する一般的な理解に影響を及ぼす新しいモデルを提示している。
doi:10.1038/nrc1535
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