Research Highlights

新しいSNP

Nature Reviews Cancer

2005年1月1日

癌全体の半分以上にはTP53 腫瘍抑制因子の変異がみられ、それ以外の癌ではMDM2およびARFといったこの経路のその他の成分が変異していることから、腫瘍発生にはこの経路が重要であることがよくわかる。Arnold LevineらはCellの最新号で、上記成分に自然発生する多型が個体の癌感受性に影響を及ぼすかどうかを検討し、確かに影響を及ぼしていることを突き止めた。

Levineらは、MDM2イントロンプロモーターの第1イントロンの300塩基対領域に焦点を当て、健常個体50例について配列変異を調べたところ、一塩基多型(SNP)のSNP309(TがGに変化)が比較的高い頻度で存在することがわかった。SNP309は、SP1転写因子の推定上の結合部位をいくつか含む領域内にあり、ヌクレオチド変化はこの部位のひとつを拡大していると考えられた。これにより、SP1結合の親和性が増大するものと思われる。Levineらは、電気泳動移動度シフトアッセイによりこれを分析し、精製ヒトSP1は、野生型オリゴヌクレオチドよりも、 SNP309を含むオリゴヌクレオチドとの結合親和性が高いことを突き止めた。この結合は、クロマチン免疫沈降法を用いてin vivoで確認されている。

SP1結合の増大にはどのような作用があるのだろうか。SPタンパク質がないDrosophila SL2細胞に、SP1と、野生型またはG/Gホモ接合型のいずれかを含むMDM2プロモーターによって駆動される発現ベクターとを移入したところ、野生型プロモーターよりもSNP309 型の方が、ルシフェラーゼレポーターが高レベルで発現した。すなわち、SNP309では確かにMDM2プロモーターからの転写レベルが高くなるとみられる。またSNP309をもつ腫瘍由来細胞系では、野生型MDM2 プロモーターをもつ細胞系よりもMDM2 mRNA発現が8倍、タンパク質発現が4倍になることもわかった。RNA干渉法または抗生物質ミトラマイシンAのいずれかによってSP1活性を阻害すると、MDM2レベルが著明に低下したことから、この増大を引き起こしているのはSP1であることが判明した。

それにしても、このSNPはp53経路にどのような影響を及ぼすのだろうか。MDM2はp53の負の調節因子であるため、その発現が増大するとp53経路は減衰するはずである。これが真であることは、SNP309をもつ細胞系で化学療法薬エトポシドに対するp53の反応が異なっていることからわかった。野生型プロモーターをもつ細胞系をエトポシドで処理すると20%〜35%が死滅したが、SNP309のホモ接合型の細胞系では、死滅した細胞がわずか2% 〜3%であった。これほど死滅率が低いのは、p53転写プログラムがあまり誘発されないためであることがわかった。

では、これが腫瘍形成リスクに影響を及ぼしているのだろうか。Levineらはまず、(TP53の生殖細胞系のコピーがひとつのみの) Li?Fraumeni症候群患者を対象に、このことを検討した。SNP309も併せもつ個体はMDM2のレベルが高く、DNA損傷応答が弱かった。しかも、若齢で腫瘍が発生し、多発性原発腫瘍が発生する可能性が高かった。またSNP309型をもつ個体では、軟部組織肉腫の平均診断年齢が12歳若く、SNP309型が孤発性癌のリスクにも影響を及ぼすことがわかる。

以上のことから、自然発生する遺伝的変異体は、腫瘍の発生しやすさに影響を及ぼしうる。集団を対象に、このような変異体をさらに詳しくみると面白そうだ。

doi:10.1038/nrc1534

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