何よりもまず
Nature Reviews Cancer
2005年1月1日
癌の幹細胞仮説とは、幹細胞の特性をもつ細胞のごく一部が、腫瘍を定着させているというものである。白血病については癌の幹細胞がすでに特定され、その特徴も明らかにされているが、充実性腫瘍における存在を示す証拠はごく少ない。Peter Dirksらは、in vivoで幹細胞の特性をもつヒト脳腫瘍からの細胞亜分画の単離および特徴について報告している。
癌幹細胞は、その自己再生能のほか、このうちの少数の細胞がもつ元の腫瘍と同じ表現型の腫瘍を形成する能力に基づいて同定される。Dirksらは以前に、悪性の神経膠芽細胞腫または髄芽細胞種のいずれかから、in vitroで幹細胞様特性をもつヒト脳腫瘍細胞の集団を単離して同定している。両腫瘍の細胞は、細胞表面に糖タンパクCD133が発現するという特徴をもつが、この糖タンパクは、正常神経細胞、造血幹細胞および造血前駆細胞にも発現する。Dirksらは最近Natureに発表された研究で、上記細胞を非肥満糖尿病/重症複合免疫不全(NOD/SCID)マウスに注入し、そのin vivo での能力について詳しく記載している。100個という少数のCD133+細胞を注入すると、患者にもとからあった腫瘍と同じ特徴をもつ腫瘍が生じる。しかし、CD133-細胞を105個注入しても、このマウスに腫瘍は生じず、CD133+細胞が脳腫瘍幹細胞であることがわかった。
この幹細胞には、どのような特徴があるのだろうか。増殖速度が大きいほか、髄芽細胞腫および神経膠芽細胞腫のCD133+細胞はいずれも、CD133-細胞が発現しない神経前駆細胞マーカーを発現した。これに対して、 CD133-細胞は分化した神経細胞系マーカーを発現する。このことから、上記幹細胞が神経前駆細胞の表現型をとることがわかる。CD133+細胞にはまた、癌幹細胞の重要な特性がある。一連の再移植試験にみる自己再生能である。両脳腫瘍の元の異種移植片から、1,000個という少数のCD133+細胞を次の組のマウスに再注入すると、そのマウスには一次異種移植片と同じ表現型の脳腫瘍が形成された。
CD133+およびCD133-の腫瘍細胞はいずれも、同じ細胞遺伝学的変化を来しており、同じクローンに由来してしいることがわかった。しかし、CD133+細胞は腫瘍集団全体の20?30%しかなく、Dirksらは、この細胞がなんらかの形で異常分化のパターンを獲得したのではないか、としている。さらに実験を重ねることにより、この幹細胞によって開始される事象が正常幹細胞や幹細胞の特性を再獲得した正常前駆/分化細胞で起こるかどうかが明らかになるだろう。このほか、小規模な癌細胞集団のみが完全な腫瘍再生能力を有するとみられることから、治療後再燃は、発癌細胞を狙い損なった結果であると考えられる。
doi:10.1038/nrc1532
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