制御した攻撃
Nature Reviews Cancer
2004年11月1日
悪性度の高い卵巣癌の根底にある分子的および遺伝的事象についてはほとんどわかっていない。Gordon Millsらは、腫瘍DNA試料の増幅領域特定に比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)を用い、低分子量GTPase RAB25が卵巣腫瘍の増殖および進行の重要なメディエータであることを確認した。
卵巣癌および乳癌で染色体1qの増幅が頻発していることは以前からわかっているが、発癌イニシエーションまたは進行の基盤となりうる特定の遺伝因子はこの領域において未だ確認されていない。MillsらはCGH分析を実施し、進行した漿液性上皮卵巣癌の52例中28例(54%)に、染色体1q22にある1.1 Mb領域の増幅を確認した。卵巣癌患者のDNA試料を調べたところ、手術を施行しても化学療法を実施しても、この領域のコピー数が多い患者は無病状態にならないか、なったとしてもその期間が、ほかの卵巣癌患者と比較してはるかに短いことがわかった。
染色体1q22に含まれる遺伝子は34個であるが、そのうちのどれが癌の進行に関連しているのだろうか。MillsらがそのマイクロアレイデータおよびmRNA発現レベルの分析を実施したところ、卵巣腫瘍サンプルのほとんど(89%)において、RAB25 mRNAのレベルのみが著明に高かった。独立したデータセットからも、これと似た所見が確認されている。高レベルのRAB25 発現は、早期よりも晩期(III期およびIV期)の腫瘍により多く認められ、過剰発現を伴う患者の生存期間は短かった。また、この遺伝子は乳癌サンプルの約50%でも正常組織に比べてアップレギュレートされており、前立腺癌および膀胱癌についても、以前にこの遺伝子のアップレギュレーションが報告されている。
腫瘍の増殖または進行の助長は、RAB25 のアップレギュレーションだけで十分なのだろうか。Millsらが卵巣癌および乳癌の細胞系にこの遺伝子を過剰発現させたところ、細胞のアポトーシスおよびアノイキスの誘導が妨げられた。このような細胞生存助長作用は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)シグナル伝達経路の活性化を介していた。これはリン酸化AKTの存在によって示され、向アポトーシスBCL2ファミリーメンバーの発現低下につながった。RNA干渉法によってRAB25の発現を阻害するとこの作用は逆転し、細胞にはアポトーシスが起きた。RAB25は小胞輸送および細胞骨格構築の調節因子としてよく知られているが、この抗アポトーシスPI3Kシグナル伝達経路とどのように相互作用するかを明らかにするには、さらに研究を重ねる必要がある。
in vivo 腫瘍増殖に対するRAB25の作用はどのようなものか。RAB25が過剰発現する卵巣癌細胞系をヌードマウスに注入すると、よりサイズが大きく、悪性度の高い腫瘍が生じた。しかし、この遺伝子は非発癌性の卵巣上皮細胞を形質転換させることはできず、卵巣癌(おそらくは乳癌も)のイニシエーションではなく進行に必要であることがわかる。
doi:10.1038/nrc1487
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