Research Highlights

フォークを分けて腫瘍が生じる

Nature Reviews Cancer

2004年11月1日

この20年間、転移性横紋筋肉腫患児に対する化学療法は、ほとんど改善をみていない。サブタイプには2種類あり、胞巣型の方が胎児型よりも予後不良である。胞巣型横紋筋肉腫は、そのほとんどにpaired box遺伝子3 (PAX3):フォークヘッド(FKHR) t(2;13)転座が存在すること以外、細胞生物学的にも分子生物学的にもあまりわかっていない。そこでKellerとCapecchiらは、マウス胞巣型横紋筋肉腫モデルを新規に作製して、この稀な骨格筋腫瘍についてさらに踏み込んだ検討を行い、その結果を論文2報に著し、Genes and Developmentに発表している。

Kellerらは、キメラ遺伝子Pax3:Fkhr (筋肉の発生に影響を及ぼす機能獲得性変異を生じると考えられている)をノックインし、同時に、これに対応するよう、Pax3およびFkhrそれぞれの1対立遺伝子を不活化するという形で、入念にヒト癌の遺伝子状態を再現した。重要なことに、Kellerらは、この変異が骨格筋の最終分化時にのみ発現するように設定していた。発生早期におけるPax3:Fkhr発現に関する論文では、条件の異なるマウスモデルが広範囲に使用されており、胚発生時に著明な筋肉欠損が認められ、生後の筋幹細胞にPax3:Fkhrが発現するマウスにはまったく腫瘍が発生しないことから、早期前駆筋幹細胞、胚および生後の筋幹細胞のPax3:Fkhr変異が腫瘍を引き起こす可能性は低いとされている。

29カ月間にわたってPax3:Fkhrマウス228匹の発生および成長の追跡が行われたが、この間に横紋筋肉腫を発症したのは1匹のみであった。そこでKellerらは、何が腫瘍発生率を押し上げているのかを追究する目的で、まず(Pax3が消失しても、腫瘍が形成されやすくはならないことはわかっているため)、Fkhrの機能的対立遺伝子が消失すると腫瘍形成が助長されるかどうかをみたが、腫瘍発生率は増大しなかった。ヒト胞巣型横紋筋肉腫は、TP53 またはCDKN2A (INK4AおよびARFをコードする)によく変異がみられることから、Pax3:Fkhrマウスを、上記遺伝子のいずれかの1対立遺伝子が筋肉特異的に欠失しているマウスと交配した。ここでも腫瘍の発生が増大することはなく、Kellerらは、各遺伝子のホモ接合体作製に乗り出した。その結果、機能的p53経路がない場合のみ、この動物に横紋筋肉腫が生じる頻度が高くなり、その大部分にはPax3:Fkhrホモ接合性が必要であった。重要なことに、このマウス胞巣型横紋筋肉腫は免疫組織学的にみて、大部分がヒト胞巣型横紋筋肉腫と類似していた。

マウスの横紋筋肉腫が、ヒト癌とは異なり、ほとんどの場合にPax3:Fkhrのヘテロ接合体ではなくホモ接合体から発生するという所見は、キメラ遺伝子Pax3:Fkhrがヒトに生じるものとまったく同一ではないことの反映であるか、単に種特異的な差であるかのいずれかと考えられる。しかし、上記の結果が、横紋筋肉腫の発生を取り巻く議論の1つに、横紋筋肉腫は初期の筋幹細胞からではなく、早期筋原性マーカーを再発現すると考えられる骨格筋の最終分化細胞から生じる可能性が最も高いという説明を与えていることは間違いない。このマウスモデルの特徴をさらに詳しく知ることによって、小児の胞巣型横紋筋肉腫を効果的に治療するための新規分子標的が得られるものと期待される。

doi:10.1038/nrc1489

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