Research Highlights

分裂の苦悩

Nature Reviews Cancer

2004年11月1日

腫瘍抑制因子BRCA2は、S期のDNA修復および組換え反応に関与することがわかっている。しかし、BRCA2欠損時に生じる一連の細胞異常は、こうした機能が原因ではない。Ashok Venkitaramanらは、BRCA2の機能について細胞分裂の過程を隈なく検討し、その役割が細胞分離時にもあることを突き止めた。

Venkitaramanらは、連続時間差撮影法により、遺伝子を短縮して不活化する変異であるBrca2Tr/Trをもつマウス胚線維芽細胞(MEF)の分裂をモニタリングした。この細胞は、野生型の対照細胞に比べて、分裂後期の開始から細胞分離までの進行に要する時間が著しく長かった。二核細胞の頻度も高く、細胞質分裂が不完全であることがわかる。こうした異常は、Brca2Tr/Tr細胞をマウス胚から単離した際に、in vivoでも認められた。

しかし、これは短縮遺伝子型にしかない表現型なのだろうか。Venkitaramanらは、RNA干渉法(RNAi)を用いてHeLa細胞のBRCA2を枯渇させ、BRCA2が欠損すると、分裂後期の開始から細胞分裂の完了までの時間が延長することを確認した。

Venkitaramanらは分裂過程の不備のある部分をみるため、RNAiによってBRCA2を枯渇した細胞の細胞質分裂における主な事象を観察した。細胞質分裂は、アクトミオシン収縮環によって開始されるが、RNAi処理した細胞の50%以上では、ミオシンIIが形成中の分裂溝に適切に集まっていなかった。また、細胞が実際に分割する終期における細胞の切り離し中に、本来起こるべき各細胞縁での蓄積も起こらなかった。切り離し時点にあるBrca2Tr/Tr MEFの高頻度な蓄積は、これと矛盾しない。

では、自然発生するBRCA2欠損癌細胞にも、こうした不備が認められるのだろうか。重要なことに、Capan-1細胞系(非機能性BRCA2 6174delT変異を有する患者から単離)にもニ核細胞および切り離し時にミオシンIIが異常局在する細胞が多い。

細胞質分裂におけるBRCA2の役割をさらに裏付けるために、BRCA2には別の細胞質分裂タンパク質aurora-Bと同様の局在性があることが突き止められた。これらはいずれも、細胞質分裂の伸長期に中心構造に局在し、その後、分割後期および切り離し時には中央体へ移動する。

以上のことから、細胞分離の正確さの調節におけるBRCA2の役割は必須ではないようで、倍数性や異数性など、これまで説明がつかなかったBRCA2欠損癌細胞の表現型のいくつかは、このことに起因する。この種の染色体不安定性が、遺伝によりBRCA2 変異を有する個体に認められる癌の素因に寄与していることは明らかである。

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doi:10.1038/nrc1480

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