自立依存性
Nature Reviews Cancer
2004年10月1日
DCC (deleted in colorectal carcinoma)をはじめとする依存性受容体は、ネトリン1などのリガンドと結合していなければ、アポトーシスを引き起こす。DCCはこれまで、腫瘍抑制遺伝子であると考えられてきたが、Dccが1 コピー欠失したマウスには発癌傾向がなく、その役割は不明である。Patrick Mehlenらは現在、ネトリン1の過剰発現が、おそらくはDCCが誘発するアポトーシスを阻害することによって、大腸癌発生に寄与していることを示しており、DCCの腫瘍抑制能が、ネトリン1の細胞外濃度しだいであることがわかった。
DCCの発現減少が特に大腸癌と関連していることから、Mehlenらは、腸管上皮におけるネトリン1およびDCCの発現パターンを検討した。ネトリン1は主として腸絨毛陰窩の基部に認められ、遠位端へ向うほど減少するが、DCCは、腸管上皮にあまねく発現していた。こうした所見は、DCCの生理学的役割が細胞の生存調節にあるのでは、との考えに沿うものである。すなわち、アポトーシスは、増殖の激しい絨毛の近位部でDCCがネトリン1と結合して誘発されるのではなく、細胞死が起る絨毛の遠位部で、DCCがネトリン1と結合していないときに誘発されるのである。Mehlenらはこのことを検証するため、腸管上皮全体にネトリン1が過剰発現するトランスジェニックマウスを用い、アポトーシスが通常マウスの50%阻害されることを明らかにした。
それでは、ネトリン1は、腸管上皮のDCC誘発性腫瘍抑制を調節しているのだろうか。ネトリン1を過剰発現するマウスでは、その17%に腺腫(大腸癌を形成する早期病変)が発生し(対照マウスは0%)、43%に限局性またはびまん性の大腸過形成が認められた(対照はわずか13%)。したがって、ネトリン1はアポトーシスを抑制して腫瘍形成を促進している。
DCC消失は通常、大腸癌進行の晩期に起こることから、Mehlenらは、ネトリン1が腫瘍進行に影響を及ぼしているかどうかを検証するため、ネトリン1を過剰発現するマウスと、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)遺伝子の変異型を発現するマウスとを交配した。ちなみに、APC変異はヒト大腸の発生早期に起こる。APC変異マウスには主として低悪性度の腺腫が発生したが、ネトリン1を過剰発現するAPC変異マウスは、高悪性度の腺腫発生率がはるかに高かった(40% vs. 17%)。しかも、この高悪性度腺腫の半数が、その後、粘膜浸潤巣の存在を理由に腺癌に分類された。
Mehlen らは、機械的ならびに化学的傷害を繰り返し受ける腸管領域にネトリン1が存在しないためにDCCが誘発する細胞死によって、形質転換のリスクが抑えられるのではないかとしている。腫瘍にDCCが発現しなくなると、生き残りを掛けた細胞のネトリン1に対する依存性が低下するものと思われる。今後は、同じく腸管に発現し、推定上の腫瘍抑制因子である別のネトリン1依存性受容体、UNC5Hタンパク質の役割が研究されることになるだろう。
doi:10.1038/nrc1462
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