差を燻し出す
Nature Reviews Cancer
2004年10月1日
禁煙する理由がまだ十分でなかったかのように、新しい試験によりまた明らかになったことがある。喫煙者は非喫煙者よりも肺癌を発症しやすいばかりではなく、腫瘍遺伝子の構成に両者間で差があることから、喫煙者に生じた腫瘍は、既存の標的治療に反応しにくい、というのである。
ゲフィチニブは、上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ活性を選択的に阻害し、肺癌患者の腫瘍を10%〜28%退縮させる。Paoらは、この反応を呈した非小細胞肺癌(NSCLC)患者10例と、関連薬エルロチニブに対して似た反応を呈した7例の腫瘍についてEGFR 配列を分析した。この17例のうち12例(71%)のEGFRが変異を来していたことは、この遺伝子が変化するとゲフィチニブに対する反応が良好となることを示す以前の試験成績と一致しており、エルロチニブについても同じであることがわかった。
しかも、EGFR 変異をもつ腫瘍の75%は「喫煙歴なし」(生涯における総喫煙本数が100本未満)の患者から採取したもので、そのNSCLCに典型的な腺癌組織が認められた。
Paoらは以上の結果を敷衍するため、喫煙歴のない患者から摘出した腺癌のEGFR 変異に関するプロスペクティブな試験を実施した。これにより、15腫瘍中7腫瘍(47%)のEGFRチロシンキナーゼ領域に変異が認められた。ところが、現喫煙者または元喫煙者から無作為に選択した腫瘍で同じ種類の変異が認められたのは5%にすぎず、このうちの3/4が、手術を実施した時点で、禁煙後30 年以上経過していた患者の腫瘍であった。こうしたEGFR変異パターンから、喫煙歴のない患者の腫瘍は、喫煙者に生じた腫瘍よりも、ゲフィチニブおよびエルロチニブに対してはるかによく反応することがわかる。
上記の結果は、非喫煙者の方がゲフィチニブ治療の奏功率が高いことを示す以前の所見を分子レベルで裏付けるものである。しかし、非喫煙者の肺癌発症は全体の10%にすぎず、喫煙者に生じ、EGFR変異をもたない肺癌の大半に有効な治療戦略を新たに開発することが、今後最も重要な課題となる。
doi:10.1038/nrc1460
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