Research Highlights

statを尾行する

Nature Reviews Cancer

2004年10月1日

いくつかのヒト上皮悪性腫瘍において、シグナル伝達性転写因子3 (STAT3)が構成的に活性化されることは、すでにわかっているが、腫瘍のde novo発生におけるその要件は明らかにされていない。John DiGiovanniらは現在、この転写因子が皮膚の腫瘍発生に必要であるばかりでなく、癌細胞の増殖および生存維持に不可欠であることを示している。

STAT3 は通常、細胞質に属し、チロシンリン酸化を介する一連の増殖因子シグナル伝達経路に反応して活性化する。これがSTAT3の二量体化および核への移動につながる。DiGiovanniらは以前に、一連の発癌促進物質でマウス表皮を処理すると、STAT3が活性化することを示しており、それでこの分子が腫瘍発生に必要かどうかを明らかにしようとした。

表皮のみStat3を破壊したマウスを用いたところ、発癌促進物質 12-O-テトラデカノイルホルポール13-アセテート(TPA)を皮膚に塗布することで通常認められる上皮増殖が、このマウスには認められないことが判明した。STAT3欠損マウスの皮膚は、TPA処理に対するMYCおよびサイクリンD1 の発現レベルが大幅に低く、これら重要な両増殖調節因子がSTAT3の転写標的であることがわかった。さらに、STAT3欠損角化細胞をDNA傷害物質 7,12-ジメチルペンゾ[a]アントラセン(DMBA)で処理すると、アポトーシスを起こす可能性が対照の5倍になった。このアポトーシスは、角化幹細胞が存在する毛嚢の隆起領域に高頻度で認められた。このことからDiGiovanniらは、STAT3がDNA損傷後の角化幹細胞の生存維持に関与するものと考えている。

とりわけ、発癌物質としてDMBAを塗布し、さらに発癌促進物質としてTPAを塗布しても、STAT3欠損マウスの皮膚にはまったく腫瘍が発生しなかったことは重要である。また、STAT3活性は、DNA結合部位との相互作用を妨げるデコイオリゴヌクレオチドによっても遮断することができた。DiGiovanniらはさらに、上記オリゴヌクレオチドが培養HRAS形質転換細胞の増殖のほか、 Hras-トランスジェニックマウスにおける皮膚乳頭腫の早期発生を阻害することを明らかにしている。

最近得られた証拠によると、角化幹細胞は特に発癌物質処理によるDNA損傷および形質転換を受けやすい。この細胞における転写標的には、増殖を調節する遺伝子のみならず、細胞の生存もあるため、STAT3がこうした作用を取り持っているのではないか、と考えられる。すなわち、STAT3は腫瘍発生の最も早期においてその役割を担うことから、STAT3阻害因子は抗癌物質として有用であるばかりでなく、上皮癌予防にも有用であることになる。

doi:10.1038/nrc1463

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