Research Highlights

筋肉一片

Nature Reviews Cancer

2004年9月1日

癌による死亡の約1/3は、悪液質(骨格筋の消失を特徴とする、るい痩状態)によるもので、腫瘍の負荷によるものではない。重要な悪液質惹起因子はいくつか(サイトカインの腫瘍壊死因子 (TNF )、インターフェロン (IFN )およびインターロイキン6(IL6))わかっているが、その筋肉内での標的が何であるかはわかっていない。Denis Guttridgeらは現在、悪液質惹起因子の選択的標的がミオシン重鎖(MYHC)であることを報告し、ミオシンの発現を抑える機序が因子依存性であることを明らかにしている。

Guttridgeらは、マウス筋管培養モデルおよびマウス初代筋管を用い、TNF がIFN と連携して筋原線維タンパク質の発現に及ぼす作用を検討した。発現が低下したのは、(筋内の筋原線維タンパク質の約40%にあたる)MYHCのみであった。TNF またはIFN 単独での作用はほとんどないが、両者が合わさると、Myhcと、MYHCの重要なアイソフォームの転写活性をコントロールする筋細胞調節因子MyodのmRNAレベルがともに低下する。MYODの外因性発現により、 TNF およびIFN の存在下でMyhc転写が戻ったことから、サイトカインはMYOD合成の阻害によって作用することがわかる。筋管モデルでは、MYHCタンパク質代謝回転に変化がみられなかった。サイトカイン発現および対照のチャイニーズハムスター卵巣細胞をマウスに筋注してTNF +IFN のin vivoでの作用を分析したところ、Myhc mRNAが選択的に減少することが確認された。

では、この筋タンパク質減少機序は、癌の場合にも当てはまるのだろうか。Guttridgeらはこれを評価するため、確立した癌悪液質モデル(colon- 26腺癌マウス)のMYHCについて詳しくみた。このモデルはTNF でもIFN でもなくIL-6に依存していたが、Guttridgeらは、悪液質を引き起こす因子が何であろうと、選択的な標的はMYHCではないかと考えており、実際、MYHCが選択的に減少することを明らかにしている。しかし、興味深いことに悪液性筋肉におけるMyhc mRNAレベルは低下していなかった。その代わり、タンパク質レベルが低下していた。分解ターゲティングタンパク質のユビキチンの発現は、筋特異的ユビキチン経路遺伝子とともに、悪液性筋肉において増大した。さらに、免疫沈降試験を実施したところ、MYHCフラグメントが悪液性筋肉に存在し、ユビキチンとともに沈降したミオシンが少ない筋肉もあったことから、上記筋肉のミオシンはすでに分解されていることがわかった。

MYHCはこのため、多くの悪液質誘発因子の主な標的となるが、ミオシンの消失機序はさまざまであり、因子特異的ではないかと考えられる。Guttridgeらはこのほか、ミオシンが消失すると、ミオシンとその主な結合相手でサルコメア構造をつくるアクチンとの複合体が減少することを明らかにしているが、ミオシンが消失するとその下流で何が起こるかについては、今後検討する必要があるとしている。

doi:10.1038/nrc1442

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