Research Highlights

構造破壊

Nature Reviews Cancer

2004年9月1日

抗癌治療として利用できるように、癌細胞が低酸素条件下でも生き延びる経路を効果的に破壊することは、癌研究者らの長年の目標であった。Andrew L. Kungらは現在、低酸素誘導性因子(HIF)の経路において重要なコアクチベーターの構造を破壊し、in vivoで腫瘍増殖を阻害する低分子を発見したと報告している。

HIF1 経路の活性化は、治療に対する腫瘍の抵抗性、浸潤および転移の増大、不良な転帰と関係がある。酸素濃度が低下すると、HIF1 が蓄積してHIF1 と二量体化し、コアクチベーターp300/CREB結合タンパク質(CBP)が動員される。この複合体がさらに低酸素応答配列と結合して、適応機序を促進する遺伝子の転写を開始させる。

Kungらは、きわめて重要なHIF1とp300との相互作用を阻害する低分子を検索するために、ハイスループットスクリーニング法を考案した。HIF1 の41アミノ酸ポリペプチドp300/CBP結合ドメイン(TADC)をマルチウエルプレート上に固定し、p300の121アミノ酸HIF1 結合ドメイン(CH1)がプレートに結合するのを妨げる能力について、600,000種類以上の化合物ライブラリを検証した。細胞を用いた確証的なin vitroアッセイを実施したところ、特異的阻害因子 (ケトミン)がひとつだけ見つかった。ルシフェラーゼレポーターアッセイによると、ケトミンはp300のほとんどのドメインと結合する因子のp300依存性転写活性を妨げることはなかったが、CH1ドメインと特異的に結合する因子の活性を妨げた。NMR分光法からは、ケトミンの存在下ではCH1の構造が減少していることが明らかになり、これがHIF1 との相互作用を妨げていることがわかった。

では、in vivoの低酸素条件下では何が起こるのだろうか。腫瘍を異種移植したマウスにケトミンを投与すると、低酸素によって誘発される血管内皮増殖因子のレベルは用量依存的に低下した。生理的HIF1機能のマーカーである血清中エリスロポイエチン濃度も低下した。Kungらは、HIF1経路に対するケトミンの作用を直接明らかにするため、ルシフェラーゼをエリスロポイエチンエンハンサーのコントロール下に置いたところ、低酸素条件下でレポーター活性が100倍以上に増大した。右脇腹に低酸素-レポーター細胞系、左脇腹に構造的に発現したルシフェラーゼ細胞系をもつマウスに(媒体対照ではなく)ケトミンを投与したところ、右脇腹のみレポーター活性が約50%低下した。以上の結果からも、ケトミンが腫瘍内のTADC?CH1タンパク質間相互作用を特異的に破綻させていることがわかる。

ケトミンはこのほか、異種移植した大腸癌および前立腺癌の増殖も有意に低下させ、腫瘍を実質的に壊死へ追い込んだ。投与部位に局所毒性が認められたが、その原因は不明である。

p300のCH1ドメインの三次構造を破壊することによって、HIF1との結合およびHIF1経路を介するシグナル伝達が特異的に阻害されたことから、これが癌増殖を妨げる新しい低分子法であることがわかる。

doi:10.1038/nrc1436

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