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Nature Reviews Cancer

2004年9月1日

癌遺伝子RASは、実にさまざまなヒト癌の発生および進行に関与し、下流のシグナル伝達経路の多くに影響を及ぼしている。そのひとつに腫瘍抑制因子PTENによって阻害される経路があるため、PTEN活性が崩壊すると、活性化したRASとの相乗作用により腫瘍の進行が助長されると考えるのが理に適っている。しかし、Balmainらは現在、上記経路の関係が複雑で、時に相互排他的であることを明らかにしている。

脂質およびタンパク質の二重特異性ホスファターゼをコードするPTENの遺伝性変異は、発癌リスクのある症候群Cowden病患者に明らかである。こうした患者には、皮膚を含むいくつかの臓器に小さな腫瘍様増殖(過誤腫)が生じる。ヘテロ接合性Pten+/ -マウスにも、皮膚過誤腫が生じるが、Cowden病患者とは異なり、この過誤腫が進行して扁平上皮癌になることはない。Allan Balmainらは、PTEN消失が皮膚癌発生を助長する理由を特定するため、上記マウスを変異誘発薬7,12-ジメチルベンツアントラセン(DMBA) および発癌促進ホルボールエステルの12-O-テトラデカノイルホルポール-13-アセテート(TPA)で処理した。

Pten+/-および野生型の同腹子をDMBAおよびTPA の両方で処理したところ、Pten+/-マウスは対応する野生型よりも、処置の初期段階で乳頭腫が多く発生した。処置後44週までに、Pten+/-マウスはいずれも癌が明白化したが、野生型マウスではこれがわずか30%であった。乳頭腫および癌を分子レベルで検討したところ、ヘテロ接合型マウスの病変部にはPtenのヘテロ接合性消失(LOH)がみられたが、同じ病変部でも野生型マウスにはこれがみられなかった。では、ほかにどのような変異が、野生型マウスに乳頭種および癌を形成させるのだろうか。Hrasの活性化変異はDMBA誘発性の皮膚癌に一般的で、Balmainらは、このような変異が野生型マウスの乳頭種および癌に必発することを突き止めた。また、Pten+/-マウスのPten LOH癌にはRas変異型が認められず、PTENが完全に消失すると、RAS経路を活性化する必要もなくなることがわかったのにも、興味がもたれる。

RAS を活性化してもPTENを阻害しても、AKTが活性化され、細胞増殖および細胞生存につながる。では、この両変異型が相乗作用しないのはなぜだろうか。 RASの発現レベルが高い場合にも、ほかの経路を通じて老化および/またはアポトーシスが誘発される。このことからBalmainらは、PTENが完全に消失すると増殖が多くなるが、RASによる増殖の阻害によってバランスが取れているために、両変異を呈する腫瘍は表現型として無痛性が大きくなるのではないかとしている。以上の結果は、RAS経路の阻害薬をデザインし、使用するのに重要な意味をもつ。PTENが完全に消失しても、RASが活性化しても生じる稀な腫瘍のRASを阻害すると、アポトーシスと増殖のバランスに異常を来す可能性があり、PTENヌル腫瘍のRASをターゲットとしても、何ら効果はないことは明らかである。このことから、治療前に腫瘍の表現型状態を明らかにすることが不可欠な例がほかにもあることがわかる。

doi:10.1038/nrc1447

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