複雑な絵
Nature Reviews Cancer
2004年9月1日
抗癌治療の基礎を成す血管新生の阻害は、腫瘍に動員される血管形成内皮細胞の遺伝子が安定しているために、不均一さに起因する問題によって腫瘍細胞を標的にした治療の効果が損なわれる可能性は低いという仮定の上に成り立っている。そんな中、リンパ腫患者の微小血管内皮細胞には、それに対応する腫瘍と同じ遺伝子の異常をもつものがあるというStreubelらの発見には、驚かされるとともに興味を掻き立てられる。
血管新生は発達中の腫瘍にとって不可欠な過程であり、2つの機序を経て起こる。すなわち、既存血管からの新しい毛細管の分枝、内皮細胞の増殖などによって促進される既存血管の拡大、分離および融合である。Streubelらは、移植後リンパ球増殖性障害(性不同者間肝移植により発生)を呈する患者の腫瘍内部の内皮細胞には、腫瘍細胞と同じ遺伝子欠損(X0)があることから、両者の遺伝子に関連性を見出し、そこに目をつけた。Streubelらは、この現象をさらに深く知るため、既知の細胞遺伝学的変化を有する別のB細胞リンパ腫27例について検討した。全リンパ腫のパラフィン切片を作製し、これを蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)および免疫組織学的分析に供した。内皮細胞の同定には、内皮特異的マーカーを標識するために数種類の抗体を用いたほか、既知のB細胞リンパ腫染色体転座マーカー(一次変化)をはじめ、遅れて生じる数的な染色体異常(二次変化)にはFISHプローブを用いた。
Streubelらは、どの標本でも、割合にばらつきはあるものの(平均37%)、リンパ腫細胞から検知される染色体異常は一次、二次ともに陽性であることを突き止めた。この所見を裏付けるため、腫瘍標本から(可能な範囲で)単離した内皮細胞を新鮮培養して分析したところ、元の腫瘍切片から検知された割合よりは低いながらも、3代以上継代培養した内皮細胞にも遺伝子異常があり、遺伝子異常は安定的に遺伝することがわかった。
この研究からは、どのような結論を導くことができるだろうか。まずは、(機序はわかっていないが、)腫瘍と同じ遺伝子異常をもつ腫瘍由来血管内皮細胞が一定の割合で存在すること、さらに、腫瘍血管系は元来考えられていたよりもはるかに不均一であり、そのために初期腫瘍の特性によって決まる可能性があることである。以上の所見が刺激となって、今後、腫瘍血管形成機序についてさらに踏み込んだ分析が行われ、より腫瘍特異的な抗血管新生療法の開発が促進されることは間違いない。
doi:10.1038/nrc1438
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