Research Highlights

終わらせる手段

Nature Reviews Cancer

2004年9月1日

ヒト腫瘍に生じ、増殖を持続させる変異にはテロメラーゼ発現の増大があり、この酵素を阻害することが抗癌治療の正攻法となっている。 Elizabeth Blackburnらは最近の論文で、レンチウイルスをベースにしたベクターを用いて、テロメラーゼの機能を寸断すると、腫瘍細胞の増殖が大幅に阻害されることを明らかにしている。

テロメラーゼは、触媒タンパク質のサブユニットであるテロメラーゼ逆転写酵素と、 RNAサブユニットであるテロメラーゼのRNA成分(TERC)の協調作用によって、染色体末端のテロメア反復配列を維持している。テロメアDNA反復配列を合成に導くのは、TERCの短いテンプレート領域であり、この領域の変異型を発現させた以前の実験では、腫瘍細胞増殖の阻害が示唆されていた。しかし、発現レベルが低く、決定的な結論が出せずにいた。そこでBlackburnらは、非分裂細胞を含む種々細胞に遺伝子を効率的に送達して取り込ませることができるという理由から、安全に組換えたレンチウイルス系を用いてTERCテンプレート領域の変異型を発現させた。

テロメラーゼ陽性のヒトメラノーマ細胞系およびヒト膀胱癌細胞系において、変異TERCを発現させたところ、in vitroで細胞増殖が迅速に抑制された。しかし、内因性TERCの発現レベルが高い結腸癌および乳癌の細胞系では、変異TERCの効果があまりみられなかった。 Blackburnらはこの問題を克服すべく、TERCの野生型特異的配列を標的とする短いヘアピンRNA(siRNA)を設計し、同じレンチウイルスベクターから、これと変異TERCとを共発現させた。共発現により、siRNAまたは変異TERCを単独で発現させた場合と比べ、増殖が大いに阻害された。

では、変異TERC発現はin vivoでも効果があるのだろうか。ヒト膀胱癌細胞に野生型TERCまたは変異TERCを感染、または擬似感染させ、これをヌードマウスの腎皮膜下に異種移植した。擬似感染によって野生型 TERCを発現する細胞は、生着して大型で血管充実度の高い腫瘍となったが、変異TERCを発現する細胞は腫瘍増殖および血管新生が抑えられることがわかった。

変異TERC発現は、どのように増殖を阻害しているのだろうか。Blackburn らは、これがテロメアの短縮によるものでも、腫瘍抑制因子p53の機能によるものでもないことを明らかにしている。変異TERCが、DNA修復関連タンパク質GADD45およびWAF1の活性化により、DNA損傷応答を引き起こすことを示す証拠があるが、この経路についてはさらなる特徴づけが必要である。

Blackburnらは、Kashani-Sabetらと共同で行った別の取り組みで、リボザイム(ほかのRNA分子を配列特異的に切断することができるRNA分子)を用い、マウスメラノーマ転移モデルのマウスTERCを標的にしている。この研究では、陽イオン性リポソームを用いてプラスミドをベースにしたリボザイムを全身投与しており、処置マウスは未処置の対照マウスと比べてメラノーマ転移が大幅に阻害された。以上のことを総合すると、両試験での取り組みから、アップレギュレートされたテロメラーゼを標的としたさまざまな癌患者の治療が可能であることがわかる。

doi:10.1038/nrc1448

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