守護神と弾圧者
Nature Reviews Cancer
2004年8月1日
生物には、どの種にも保存が見込まれる基本プロセスというものがある。とはいえ、利用している分子レベルの機序が驚くほど多彩なものもある。 McPhersonらの最近の報告によれば、MUS81エンドヌクレアーゼは、(停止した複製フォークにみられるような)酵母の分枝DNA 構造の処理に関与しており、哺乳動物におけるゲノム安定性および腫瘍抑制に必要である。
Mus81の in vivoでの役割を明らかにしようと、McPhersonらは、マウスでこの遺伝子をノックアウトした。酵母におけるMus81の役割から、マウスに不妊などの減数分裂組換え異常がみられると予想した。ところがなんと、配偶子形成に異常はなく、繁殖も可能であった。Mus81-/-胚性幹細胞系、B細胞系およびT細胞系の遺伝子ターゲティングが正常であったことから(DNA再構成を必要とする個体発生)、細胞が二本鎖DNAの切断に対処するのに、Mus81が必要というわけではないことが確認された。
しかし、Mus81ノックアウトマウスには、確かにアルキル化剤マイトマイシンCに対する変異胚性幹細胞の感受性が高いという表現型があり、この遺伝子がマイトマイシンCによるDNA鎖間架橋の修復に関与していることがわかる。Mus81にはこのほか、ハプロ不全ゲノム管理因子の役割もあるとみられ、Mus81 のコピーがひとつでも失われると、異数性をはじめとする染色体異常が起こる。
一見、変異マウスは正常のようであるが、健康で生後1年間生存していたのは、ホモ接合体のわずか27%、ヘテロ接合体の50%であった。その多くに、細胞レベルでの異数性が原因の腫瘍(主として非Hodgkinリンパ腫)が認められた。Mus81のホモ接合体とヘテロ接合体とは同程度に癌化しやすいことから、その腫瘍抑制機能にはMus81の両コピーが必要とされるはずである(ゲノムの完全性に2つのコピーが必要であるのと同じ)。
MUS81が単独でハプロ不全腫瘍抑制因子の役割を果たすわけではないが、腫瘍形成には腫瘍抑制因子の両コピー消失が必要であるとする一般的な見解と相反している。力学的には、Mus81ハプロ不全に起因するゲノム不安定性が、前癌状態のリンパ球などにおいて腫瘍形成を促進するものと考えられる。しかし、McPhersonらが提案したモデル(すなわち、ヘテロ接合体のMUS81タンパク質量が半減しても、DNA修復時に形成される中間体構造の解消には不十分である)が妥当かどうかはまだ検証されていない。
doi:10.1038/nrc1426
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