Research Highlights

良い関係

Nature Reviews Cancer

2004年8月1日

血腫は良性の病変であり、結節性硬化症 (TSC)およびPeutz?Jeghers症候群 (PJS)といった一連の優性遺伝性腫瘍症候群に発症する。2つの研究グループが現在、TSCとPJSとが分子レベルでつながっていることを示す証拠を提示している。

血腫はさまざまな組織に発生するが、TSC患者またはPJS患者にみられる血腫は組織学的に類似している。PJS腫瘍抑制因子キナーゼLKB1 の既知のリン酸化ターゲットのひとつが、エネルギーを感知するAMPキナーゼ(AMPK)で、AMPレベルが高い(ATPが低い)と活性化する。TSC2 (TSCに関与する腫瘍抑制因子であり、ラパマイシン標的(TOR) キナーゼの調節因子でもある)は、AMPKの直接の標的で、CorradettiらおよびShawらはこれをきっかけに、Lkb1の消失により遮断される分子経路を詳しく検討した。

両研究グループはまず、LKB1がTORキナーゼ基質であるS6キナーゼおよび4EBP1のリン酸化を負に調節することを確認した。この両タンパク質のリン酸化は、LKB1が機能していない細胞に多かった。両研究グループは次に、AMPKの活性を操作して、この経路の調節を検討した。Shawらは、模擬 AMPを用いてAMPKを刺激し、LKB1が機能している場合に限り、TSC2がリン酸化されることを明らかにした。Corradettiらは、AMPK 阻害因子を用いて、AMPKが機能していなければ、LKB1はS6キナーゼのリン酸化状態を変化させることができないことを示した。

上記所見の生理学的意義とは何だろうか。TORは、エネルギーを感知する経路の成分であり、Tsc2-/-細胞はグルコースを奪われる(TOR阻害因子のラパマイシンによって遮断される反応)とアポトーシスを起こす。両研究グループによると、グルコース不在下のLkb1-/-細胞でも、ラパマイシンに対する感受性および反応は同じであった。Corradettiらは、Tsc2-/-細胞と同じくLkb1-/-細胞は血管内皮増殖因子を高レベルで分泌するが、ラパマイシンの存在下ではこれが少なくなることを明らかにした。Shawらも、Lkb1+/-マウスがPJS患者の血腫に似た腸血腫を発症し、この血腫でTOR活性レベルが増大していることを突き止めた。

したがって、PJSとTSCとの類似性は、LKB1およびTSC2が同じキナーゼシグナル伝達経路に属していることによる。両疾患がTORに及ぼす影響からも、その患者の血腫治療にラパマイシンおよびその類縁体を利用できることがわかる。しかし、このような類似性があるにせよ、興味深い疑問が残る。たとえば、PJS患者は腸管に血腫が生じ、TSC患者は幅広い組織に血腫が生じるのはなぜだろうか。理由として考えられるのは、TSC2機能の消失による影響が及ぶのは、エネルギーシグナル伝達経路にとどまらないことである。さらにTsc2-/-細胞は、Lkb1-/-細胞に無傷で残っている増殖因子を介する経路には反応しない。

doi:10.1038/nrc1427

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