自己再生
Nature Reviews Cancer
2004年7月1日
癌が幹細胞疾患であることを示す証拠は主として、ヒト急性骨髄性白血病(AML)の研究から得られている。ほとんどの白血病細胞は増殖せず、白血病の維持には、特殊化せずに分裂能を保持し、自己再生するまれな白血病幹細胞(LSC)が必要である。John Dickらは現在、LSCの特徴をさらに明確にし、その階層構造も解明している。
非肥満性糖尿病/重症複合免疫不全症(NOD/SCID)モデルマウスを用いた以前の実験では、正常ヒト幹細胞(HSC)およびこのモデルマウスにAML を生じる細胞(SCID白血病発生細胞:SL-IC)に、同じ細胞分化マーカーが多いことが判明した。AML患者から単離したSL-ICをマウスに移植すると、元の患者の腫瘍とよく似たAML移植片が生じた。DickらはLSCが以前に考えられていたようなクローン化能力を有する関連前駆細胞プールではなく、HSCプールに起源しているのではとの仮説を立てた。
正常HSCはさまざまな再構築能を有し、短期および長期いずれの再構築細胞をも産生することから、Dickらは、LSCプールの細胞も同様に複雑であるかどうかを検討した。患者から試料を採取してNOD/SCIDマウスに移植し、レンチウイルスベクターを介するクローントラッキングを実施したところ、追跡したSL-ICは移植時に一時的に生じるクローン(短期SL-IC)と、実験中常に安定的に寄与するクローン(長期SL-IC)に分けられることを突き止めた。
では、SL-IC機能の不均一性は何によるのだろうか。これまで、SL-ICの自己再生能は正常HSCよりも高いとされてきた。Dickらはこのことをさらに詳しく調べるため、被移植NOD/SCIDマウスの骨髄を二次被移植マウス2匹に注入し、さらにこの二次マウスのうち1匹の骨髄を三次マウス2匹に注入するという累代移植を実施した。SL-ICはマウスからマウスへと効率的に導入された。一次マウスのクローンの一部は、移植を受けた二次マウスの1匹または双方に認められ、長期SL-ICは一次マウスにおいて自己再生されたに違いないことが伺えた。一次マウス独自のクローン169個のうち、多くが二次マウスのいずれにも認められず、これが自己再生能の低い短期クローンであることがわかった。一次マウスに残存したほかのクローンは、二次マウスには一過性にのみ生じ、短期クローンは長期クローンから生じることがわかった。また、三次移植後に認められたクローンはさらに少なく、かなり長期にわたって自己再生能をもつSL-ICはごく一部に限られることがわかった。このほか、一次マウスに認められず、二次マウスに認められたクローンが少数ながらあった。Dickらは、この細胞は一次マウスでは大部分が静止しているが、その後、迅速に拡大するクローンに分化するか、または細胞周期の速度は遅いままであるが、増殖プールがその後の分裂を繰り返して検知されるようになるとの仮説をたてている。
LSCとHSCとはコンパートメントの複雑さが類似していることから、AMLの白血病誘発事象はHSCで始まり、その後、幹細胞または下流の前駆細胞が変化し、自己再生能に変調を来してLSCとなるものと考えられる。AMLの標準療法は、増殖細胞をターゲットとしている。のちに増殖する可能性のある静止細胞の存在は、標準法が不備であることを物語っている。以上のデータから、AMLの増殖を積極的に駆り立てる原因となる長期再構築LSCをターゲットにした治療法が必要であることがよくわかる。
doi:10.1038/nrc1397
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