Research Highlights

変化の時

Nature Reviews Cancer

2004年7月1日

ERBB2 (HER2/NEUでも知られる)が増幅および過剰発現していると、乳癌患者の予後が不良となることから、この遺伝子がコードする受容体チロシンキナーゼは治療のターゲットとして重要である。腫瘍のERBB2の状態は一般的に安定していると考えられていたが、Songdong Mengらの研究では、疾患が進行するどの時点でも、発現レベルが変化しうることが示されている。すなわち、当初は抗ERBB2療法が奏功しなかった患者にも、のちに奏功する可能性があることになる。

ERBB2の増幅および過剰発現は、乳癌の最大25%に認められる。ヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブは、単剤療法としても化学療法剤と併用しても、このような乳癌患者を効果的に治療することができる。しかし、ERBB2の過剰発現は通常、原発腫瘍の検査で明らかにされる。初期に腫瘍がERBB2を過剰発現していない患者には、それ以上はトラスツズマブ療法を考えず、通常、生検を何度も実施して癌の進行に伴う付加的な変化を評価することもない。

Mengらは腫瘍の進行を示す代替マーカーを求めて、原発腫瘍から遊離した循環腫瘍細胞(CTC)を血液から単離し、ERBB2の増幅および過剰発現をモニタリングした。患者31例を分析したところ、原発腫瘍のERBB2発現レベルはCTCのレベルと97%一致しており、偽陽性がなかったことから、CTCは原発腫瘍の状態を表す指標としてすぐれていることがわかった。このことから、この細胞には、原発腫瘍の状態を評価する上で、生検標本にかわる信頼性がある。

しかもMengらは、CTCにおけるERBB2の発現レベルが、経時的に変化することを突き止めたのだ。ERBB2陰性であると報告されていた原発癌の再発患者24例のCTCを分析し、24例中9例(38%)のCTCが、ERBB2遺伝子増幅を獲得していることを明らかにしている。この所見は、ERBB2増幅がない状態から始まった原発腫瘍は以後もそのままであるとの従来的な考えに、相反するものである。最も重要なことには、このうち4例をトラスツズマブで治療したところ、3例に奏功した。当初は余命いくばくもないと思われていた1例も、トラスツズマブおよびシスプラチンによる治療で迅速に寛解し、無症候性期間が18カ月続いた。

Mengらは、CTCが ERBB2の増幅を獲得した患者をトラスツズマブで治療する必要があるとの結論を出し、それと同時に転移癌でもこのような変化がみられるかどうかを明らかにするには、さらに大規模な試験を実施しなければならないとしている。

最近では、腫瘍は常に変化して、その進行のさまざまな段階で、さまざまな薬物に応答するようになりうることを示す研究が多いが、これもそのひとつである。今後は、腫瘍の進行における表現型の変化を安全にモニタリングする方法の開発が、標的治療開発の重要な側面になる。

doi:10.1038/nrc1398

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